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 国際電気通信基礎技術研究所(ATR),富士通,沖電気工業(OKI),および情報通信研究機構(NICT)は,60GHz帯ミリ波を用いる無線LANシステムを試作し,伝送速度3Gビット/秒を実現したと発表した。2008年11月6~7日にATR内で開催する「ATR/NICTオープンハウス2008」で同システムを展示するという。

 ミリ波による無線LAN,つまり無線のアクセス・ポイント(AP)1台につき,複数の無線端末という無線通信システムは,データ伝送速度が100Mビット/秒台であれば10年程前からある。一方で,今回のような3Gビット/秒という超高速で通信するミリ波の無線システムは,1対1の無線システムとしては単純なものに留まっていた。高速通信と1対多の無線通信を両立させるのが難しかったためである。この研究開発は,NICTがATRなどに2008年度までの期限で,委託していたもの。「1Gビット/秒以上の伝送速度を備えたミリ波無線LANはおそらくこれが初めて。技術的には実用化までの道のりを示せたのではないか」(ATR)とする。

 今回のシステムには開発に参加したメーカーや研究所の工夫をいくつか盛り込んだ。一つは,ATRが開発した,セクタ・アンテナという物理層のシステムの制御技術と,OKIが開発したMAC(media access control)層の制御技術を連動させた点である。具体的には,APは,時分割多重アクセス(TDMA)方式で,無線端末に通信の機会の提供および電波の分配を実行する。この際,MACによる通信端末の区別だけでなく,無線端末がある方向のセクタ・アンテナをMACの情報に基づいて切り替えて利用する。

 もう一つは,ATRの技術を用いて,無線通信を暗号化するための共通鍵の生成と共有を,「電波のゆらぎ」で実現した点。一般的に,共通鍵は0と1の乱数列をなんらかの方法で発生させて生成する。今回はこの乱数を,電波の受信強度(RSSI)の時間的変化を0,1の列に置き換えて発生させた。

 この方法のメリットの一つは,共通鍵の生成と共有が同時に実現する点である。乱数列は電波が通る経路の状態に依存する。そしてこの経路は,同じ時間であれば,その向き(例えば,APから無線端末,または無線端末からAP)によらず同じである。このため,APと無線端末の双方で同時に乱数を発生させれば,その乱数は両者で一致する。共通鍵の送付,または交換という手順が不要になるのである。「2002年ころから,ZigBee向けに開発していた技術をミリ波に応用した」(ATR)。

 2.4GHz帯や5GHz帯の電波を用いる高速無線LANでは,米Quantenna Communications,Inc.が,4×4のMIMO技術を用いるなどして物理層の伝送速度1Gビット/秒を実現するチップセット製品を発表済み(発表資料)。今回の3Gビット/秒はこの3倍と速いがQuantenna社などに対抗していくには,実用時にコストをどこまで下げられるかがポイントになりそうだ。