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 山口大学大学院理工学研究科教授の堀憲次氏の研究グループは,化合物の新規合成経路を検討する際に,可能性のある合成経路を遷移状態データベース(TSDB)によって評価,順位付けをして,実証用の合成実験数を必要最小限までに絞り込む手法を開発,事業化のメドをつけた。これによって,新規化合物の合成経路を探索する時間を大幅に短縮できるという。

 堀氏らは,この開発成果を基に合成経路開発事業を請け負うベンチャー企業のTransition State Technology(山口県宇部市)を2009年6月に設立する計画。同社の代表取締役社長は博士課程の大学院生の山口徹氏が就任する。取締役は4人の予定で,堀氏は最高技術顧問に就任する予定だ。山口大ティー・エル・オー(山口県宇部市)と山口大地域共同研究センターが同社の創業を支援している。同社の設立は当初の計画に比べて遅れたが,遷移状態データベースのWebサイト利用にメドをつけ,事業化できる見通しとなった。

 コンピューターを利用する量子化学計算は,これまでは新規化合物の合成経路設計までしか適用されていないのが実情だった。これに対して,堀氏の研究グループは化学反応の遷移状態や反応物・生成物の量子化学計算結果をデータベース化した遷移状態データベース(TSDB=Transition State Database)によって,新規化合物の考えられるさまざまな合成経路を評価し,合成可能性が高いと判定した合成経路を順位付けして,その合成経路の実証実験を大幅に絞り込む評価手法を確立した。遷移状態データベース は量子化学計算結果を格納した「TSLB(Transition State Library)」を中心に,TSLB を閲覧・管理する「TSDB View」,遷移状態探索を行なう「TS Search」,構造検索を行なう「Find Tsinfo」などのプログラム群で構築される。遷移状態データベース中に存在しない新規生成物をつくる場合は,類似の構造を持つ遷移状態データを利用して計算することで,その未知の生成物の反応性も評価できるという。

 例えば,有機化学における脱離反応の一種である「Cope脱離反応」における溶媒の効果評価に遷移状態データベース利用を適用した結果,「QM/MC/FEP法」(量子化学のシミュレーション法の一種)による計算によって反応経路を順位付けし,最適な溶媒を選択することが可能な評価成果を得た。計算機は山口大の量子科学計算用計算機センターのものを利用する予定。「大規模な計算用に量子化学計算などに特化したグリッド計算エンジンによるソフトウエア事業も実施する計画も考えている」という。

 これらの成果は,平成19年度(2007年度)に科学技術振興機構(JST)の独創的シーズ展開事業の「大学発ベンチャー創出推進」プログラムに選ばれ,Transition State Technologyの創業につながった。同社は,新規化合物を合成する製薬企業や化学企業などをクライアントとする合成経路開発を請け負う事業を展開する。クライアントが目指す新規化合物に対して,合成可能性が高い合成経路群を絞り込み,その反応解析や実証実験の結果を提供する合成経路開発サービスや,合成経路の絞り込みまでを請け負う経路提示サービスを事業化する。クライアントは当面,20社程度が候補になると見込んでいる。