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――地デジ版SPIDERに必要な「技術のコモディティ化」とは,具体的には何を指すのか。

籠屋氏 例えば,地上デジタル放送の全チャンネルを,放送時に使われているMPEG-2 TS形式のまま録画すると,1週間分を記録するのにHDDが10Tバイトほど必要になってしまう。現状の記録密度のHDDの利用を前提にすると,記録用HDDが多数必要になり,ユーザーの手に届きやすい価格は実現しにくいし,筐体も大型になってしまう。

 内蔵するHDDを小型かつ低コストにするためには,HDD自身の高密度化に加え,MPEG-2をMPEG-4 AVC/H.264にリアルタイムで再圧縮できる安価で使い勝手のよいLSIが必要になる。確かにこうしたLSIは既にいくつか実用化しているが,我々のような小さなベンチャー企業が利用するには,価格や使い勝手の点でこなれていない。

 技術のコモディティ化とは,部品のコストが下がることだけを意味するわけではない。例えば,デジタル家電で良いサービスを提供する鍵の一つに,優れたUIがある。レスポンスが速く使い勝手の良いUIを開発するには,ソフトウエアとハードウエアを密接に絡めた開発が重要になる。だが最先端のLSIほど,仕様に関わる重要な情報が非公開になりやすい。その場合,ハードウエアと密接に絡んだソフトウエアの開発の難易度が,1桁も2桁も上がってしまう。チップの仕様を含めた「技術のオープン化」も,コモディティ化の一要素と我々は考えている。

――仮に,ARIB運用規定が現行のまま変わらないとして,地デジ版SPIDERの実現のために新規に開発が必要な事項は何か。

地デジ対応SPIDERの試作機。UI部分は既にHD化されており,番組表などの情報量が増えている
地デジ対応SPIDERの試作機。UI部分は既にHD化されており,番組表などの情報量が増えている (画像のクリックで拡大)

籠屋氏 大きいのは,やはりB-CASをはじめとする著作権管理に関連した技術の実装だ。

 実は,地上デジタル放送をSD画質で録画し,UIのみHD画面に対応させた開発用の試作機は,既に動作している(上の写真)。画面がHDになると,UIも劇的に変わると考えている。地デジ版SPIDERに向けて,HD画面になったら何が変わるのか,どこに着目してUIを設計すべきかを検証する必要があるから,この試作機を開発した。

 ただし,この試作機はあくまで地デジ版SPIDERの開発向けという位置づけだ。これを製品として提供する考えはない。この試作機はデジタル放送の映像を内部でいったんアナログ信号に変換したうえで,アナログ・キャプチャで録画する仕組みを採用しているからだ。この方式では著作権法*1の規定に抵触する可能性がある

*1) 上記のような録画の仕組みが,著作権法120条が示す「技術的保護手段の回避」に該当する可能性がある。

 法律に則った形で地デジ版SPIDERを製品化するには,最低限でもHDDに映像を記録する際の暗号化処理とコピー制御技術などを実装する必要がある。また,法人向けSPIDERではDVDへのダビング機能が必須なので, CPRM方式を用いたコピー機能や「ダビング10」への対応も必要になるだろう。だが例えばCPRM技術一つを取っても,(CPRMの開発主体である)大手企業ならともかく,我々のようなベンチャー企業がゼロから実装するのは大変な作業になる。

BMLブラウザーの実装は困難

 このほか,ARIB規定ではBMLブラウザーの実装が求められるが,これは大手メーカーすらも数年を要した困難な作業だ。ブラウザーをソフトウエア企業から購入する方法も考えられるが,それをSPIDERのハードウエアに実装するにはそれなりの手間を要する。 

 本音を言えば,我々としてはBMLブラウザーを用いた画面をユーザーには見せたくない。BMLブラウザーは,我々がSPIDERを通じて提供したいUIやサービスとはかけ離れているためだ。ユーザーに見せたくない機能のために,お金をかけるということには,矛盾も感じる。