PR
4/1朝まで
どなたでも有料記事が読み放題「無料開放デー」開催中!
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

 開催中の「MEMS2009」では,最初の招待講演者として伊仏STMicroelectronics社のBenedetto Vigna氏が登壇した。同氏は,STのMEMS分野の責任者であり,同社におけるMEMS事業の売り上げを2005年の数百万米ドルから2008年に2億米ドル超へと,ケタ違いに成長させた(『NIKKEI MICRODEVICES』2009年1月号に掲載のインタビュー記事を参照)。

 同氏の講演タイトルは「MEMS EPIPHANY(MEMSによるひらめき)」である。Epiphanyという宗教的な意味もあるこの言葉の意味を筆者が正確に理解している自信はないが,この講演で同氏が訴えていた点はMEMS技術のなかの“隠れた革新性”を見いだすことの重要性である。新たな市場を創出するような革新性を,顧客(機器メーカーや機器ユーザー)が気付くとは限らない。MEMSデバイス・メーカー(あるいはその中の個人)が自ら感じて(ひらめいて),商品に仕立てていく。STのMEMS分野での成功の基盤には,そうした姿勢があると,訴えているようだった。

 MEMSでの大きな成功のために自らのひらめきが重要ということは,技術志向はもちろん顧客志向も不十分ということである。これに関連して同氏は,任天堂のゲーム機「Wii」が競合のゲーム機に対する成功を収めた理由を挙げた。任天堂の競合企業は,“プロセサの性能向上”という過去の競争軸上で新規製品を市場に送り出した。これに対して任天堂は,新規ユーザーの獲得を狙い,従来とは異なる“ユーザー・インタフェース”に着目した。

 そうした状況でSTは,ゲーム機の操作を複雑にしているボタンを取り払って,ゲーム機を使ったことのない人に利用できるようにする可能性を,MEMSが秘めていることに早くから気付いていた。同氏の講演によると,STは2000年3月の時点でMEMSがボタンを取り払える可能性を見いだしていた。任天堂は,2000年代前半に,ゲーム機を使ったことのない人をユーザーとすることを考えていた。このことから,ST側のひらめきが新市場の創出につながったといえる。

 その後,両社は,2005年3月に最初に会合を持った。この会合で任天堂から求められたことは,「よい製品(性能)を,適正な価格と品質で,(必要な量を)確実に提供すること」だった。MEMSのどのような技術を使っているかどうかはどうでもよかった。そこで同氏は,STの革新技術によって,任天堂の求める価格と品質を提供し,必要な量の納入を保証すると応えたという。ここでは,技術力をアピールせず,顧客の要求に応えた。

 STは,同様の成功を米Apple Inc.の「iPhone」などの携帯型情報機器でも納めた。その結果が,現在のSTの地位を築いている。同氏が,この講演で示した調査会社の資料によると,民生機器・携帯電話機向けMEMSメーカーの中で,2008年にトップの売り上げを誇る。2008年の成長率は対前年比118%と,大手の競合に比べて伸び率でも大きい。

 革新技術に関して,同氏が主に触れたのは,顧客から見える部分のパッケージング技術と校正技術である。このうちパッケージング技術に関しては,同社がMEMSセンサー・デバイスとしてはいち早く導入した樹脂封止について紹介した。MEMSチップ,密閉用のキャップ・チップ,周辺回路チップを3段に重ねて,これをモールドした際の応力を分析した結果を示した。応力の変化が,MEMSチップのセンサー部に悪影響を及ぼさないようなチップ配置を実現している。

 同氏は,今後のMEMS戦略についても触れた。製品化し始めた多軸角速度センサーとバイオ・チップ(使い捨てのインシュリン投与用マイクロポンプ)を紹介した。さらに無線ネットワーク・センサーについて,顧客と共に開発していることを明らかにした。このうち角速度センサーについては,ASICの設計が簡素になるような工夫をMEMSデバイス側に施しているとした。比較的高い電圧をかける部分を絶縁するために,構造体の一部に酸化膜の帯を形成している。