PR
アナログ回路設計の一般的な流れ 富士通研究所のデータ。
アナログ回路設計の一般的な流れ 富士通研究所のデータ。
[画像のクリックで拡大表示]
パレート・フロントの考え方 この図では,縦軸と横軸の二つの目的しかないが,実際には複数の目的があり,複数次元の曲線になる。富士通研究所のデータ。
パレート・フロントの考え方 この図では,縦軸と横軸の二つの目的しかないが,実際には複数の目的があり,複数次元の曲線になる。富士通研究所のデータ。
[画像のクリックで拡大表示]
従来手法のフロー パレート・フロントの考え方は使っていない。富士通研究所のデータ。
従来手法のフロー パレート・フロントの考え方は使っていない。富士通研究所のデータ。
[画像のクリックで拡大表示]
今回の提案手法のフロー 各トポロジに対してパレート・フロントを求める。富士通研究所のデータ。
今回の提案手法のフロー 各トポロジに対してパレート・フロントを求める。富士通研究所のデータ。
[画像のクリックで拡大表示]
複数のパレート・フロントを合体する 今回の手法のミソの一つ。下方の緑線が複合パレート・フロント線になる。富士通研究所のデータ。
複数のパレート・フロントを合体する 今回の手法のミソの一つ。下方の緑線が複合パレート・フロント線になる。富士通研究所のデータ。
[画像のクリックで拡大表示]
処理結果の例 色の違いはトポロジの違いである。この例では四つのトポロジを対象にパレート・フロントを求めて最適化した。赤線と緑線で複合パレート・フロント線を構成。富士通研究所のデータ。
処理結果の例 色の違いはトポロジの違いである。この例では四つのトポロジを対象にパレート・フロントを求めて最適化した。赤線と緑線で複合パレート・フロント線を構成。富士通研究所のデータ。
[画像のクリックで拡大表示]

 富士通研究所は,アナログ回路設計の新手法を提案した。多目的関数の最適化問題の解法である「パレート・フロント」の考え方を適用する。パレート・フロントの考え方をアナログ回路設計に適用する提案は従来からあったが,今回は十分な前処理を実施することで,仕様変更など,変化に強い手法に仕立てた。

 富士通研究所の手法は,1月19日~22日に開催された14th Asia and South Pacific Design Automation Conference(ASP-DAC 2009)のベスト・ペーパーの2本のうちの1本に選ばれている(ASP-DAC 2009の関連ページ)。講演タイトルは「Efficiently Finding the 'Best' Solution with Multi-Objectives from Multiple Topologies in Topology Library of Analog Circuit」(講演番号5C-1)である。

 同社のYu Liu氏によれば,一般にアナログ設計は,2段階で行われる。まず,過去の設計データから回路トポロジを選ぶ。次に選んだ回路のパラメータを最適化する。ただし,この手法にはいくつかの問題点があるという。まず,処理時間の関係から,回路トポロジを最初に一つを選んでいるので,最適解になっていない確率が高い。

 また,複数の目的(例えば,処理速度と消費電力,チップ面積の最適化など)があった場合(通常はあるが・・・)には,例えば,一つ一つの目的に対して最適化処理繰り返す。この方法では処理時間がかかる。そこで,複数の目的を重み付けして一つの評価関数にまとめるが,これでは最適とは言い切れない。

パレート・フロントをフル活用

 複数の目的があった場合の最適化を解く手法として知られているのが,パレート・フロント(Pareto-front)という考え方である。パレート・フロントは,他の解よりも劣っていない解(つまり,適切な解)を集めたもので,実際の設計ではパレート・フロントを構成する解の一つを選ぶことになる。

 Liu氏によれば,この考え方をアナログ回路設計に適用した提案はすでに複数ある。しかし,最初にトポロジを選んでおり,その特定のトポロジに対して多目的最適化を実行する場合がほとんどだった,という。今回の提案手法では,その処理を複数のトポロジに対して実行する。これで,トポロジごとにパレート・フロントを求める。

 次に複数のパレート・フロントを一つにまとめる。これで複数のトポロジに対して,最適な解の集合(複合パレート・フロント線)が求まったことになる。次に,複合パレート・フロント曲線から,実現できる解を求める。同氏によれば,パレート・フロント曲線のつなぎ目や,複合パレート・フロント曲線が凸でない場合の処理に工夫がある

 Liu氏によれば,複数のパレート・フロントを一つにまとめることや,まとまった複合パレート・フロント曲線から解を自動的に求めらるようにしたことが,これまでに提案のあった手法との差異化ポイントだという。

確定期限の間際の変更に強い

 今回の提案手法は,複合パレート・フロント線を求めることで,最適解の集合をあらかじめすべて求めていることになる。この意味では前処理の負荷の大きな手法である。ただし,一度求めておけば,所望の仕様が変わっても,すぐにその仕様に対する最適解が求まる。

 消費電力を少し小さくした回路が欲しい,少し速い回路が欲しいといった要求にすぐに応えられる。「しかも最適と言える(複合パレート・フロント線に載っている)解を出せる」(富士通研究所)。こうした場合,従来は,設計者の裁量で変更し,問題がなければ,結果オーライ的な対応しかできないのが一般的だった。

 富士通研究所が示した例では,複合パレート・フロント線を求めることを含めた1回目の処理には32.4時間かかったが,異なる仕様に対する最適解の算出は1分以下で求まるという。すなわち,時間のあるときに計算しておけば,回路確定期限の間際に,短時間に安心して別の解を求めることができる手法と言える。

 なお,対象のトポロジが増えた場合には,そのトポロジのパレート・フロントを求めて,複合パレート・フロント線の構成を変えればよい。全体を再処理する必要はない。

 今後,今回の提案手法を実際の設計に適用するには,運用方法の検討が必要になるだろう。例えば,どの程度の規模の回路に適用すべきか,どの位の回路トポロジを候補にすれば良いかなどである。しかし,「勘と経験が頼り」と言われがちなアナログ回路設計に変革をもたらす手法として注目に値すると言える。