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 近年,ハイエンド・コンピュータやネットワーク機器を中心に高速シリアル通信技術が広く使われ始める中,通信速度の高速化だけでなく高速化に伴う伝送波形の崩れをいかに克服するかに研究の中心が移っている。そんな中,セッション10では,10Gb/s程度の伝送速度における波形崩れを整形する技術が3件紹介された。

 論文番号10.1では米Intel社が,初めて32nmCMOSを用いたシリアル通信技術を紹介した。90nm世代や45nm世代に比べ,電力を約1/2に抑えた判定帰還形イコライザ(Decision Feedback Equalizer: DFE)を開発した。従来高速通信回路に用いていた電流モード回路技術(CML回路技術)ではなく,32nmCMOSの高いトランジスタ能力を活かし,伝送速度に応じて電力を変えられ,かつ低電力化が可能なCMOS回路を多用した。本DFEでは,データ伝送直後に残るデータ四つ分に相当する時間のデータ崩れの影響を整形できる。DFEで課題となる,伝送直後のデータのフィードバックを次のデータが来るまでに完了しなければならない問題に対しては,伝送速度の半分の速度で動作するDFEと1:2デマルチプレクサを組み合わせて対応して,10Gb/sを達成した。

 論文番号10.2,10.5では,米IBM社と富士通が,共に10Gb/s動作のDFEを紹介した。これら2件のDFEは,最も波形崩れの大きな伝送直後のデータのみをデジタル的にフィードバックすることで波形崩れを整形する。長い時間続く波形崩れに関しては,アナログ的なアプローチで波形整形を試みている。IBM社は,デジタル的な波形整形を行うフィードバック信号に,アナログ的な波形整形信号も加えて入力データにフィードバックする方法を開発した。一方富士通は,伝送されてきた,波形が崩れているデータをまずアナログ的に整形し,その後,伝送直後のデータのみにデジタル的なフィードバックを施して波形整形を実現している。加えて富士通は,最適な波形に整形するためのコントロール・アルゴリズムも開発した。

 また,セッション16でも18Gb/sのDFEを開発した論文が発表された(論文番号16.1,NEC)。この発表では,波形崩れを積極的に利用するデュオバイナリ伝送方式に対して初めてDFEを開発した。デュオバイナリ方式には,最も波形崩れが激しい伝送直後のデータをサンプリング・クロックの位相をコントロールすることで最適なデータとして取り扱える特徴があり,これを用いてDFEを構成している。

 また,以上の4件のような高速通信技術が,コンシューマ機器へ適用され始めていることを感じさせる発表が2件あった。台湾MediaTek社とNECによる(論文番号10.6,10.7)。MediaTek社は,テレビ向けの高速インターフェース規格HDMI用のトランシーバを開発した。DVDなどからテレビまで10mほど伝送するHDMIで問題となる伝送波形の崩れを,ゲイン変更が可能なハイパス・フィルタを介してデータ受信する。ハイパス・フィルタのゲイン・コントロールを自動で行う技術を開発し,波形崩れに対応した。一方NECは,HDTV対応テレビ内のディスプレイ・コントローラからLCDドライバまでの信号伝送に高速通信技術を適用した。従来は150本程のパラレル伝送路を用いていたのに対し,クロック信号を伝送する必要のないシリアル通信技術を用いて伝送路の数を1/3に削減し,テレビ画面周囲の額縁部分を小さくできるとしている。LCDドライバは16V以上の電源電圧で液晶パネルを駆動させるが,その際に大きなノイズが発生し,データ信号から正確にクロック信号を取り出すのが困難だった。本発表では,電源やグラウンド・ノイズを隔離するレギュレータ技術と,データ信号からクロック信号を抽出しやすいインタフェース・プロトコルを開発することでクロック信号の再生に成功した。

 ハイエンド・コンピュータやネットワーク機器に用いられていた数G~10Gb/s程度の高速シリアル通信技術の完成度が高まるとともに,高速通信技術がコンシューマ製品に応用範囲を広げてきたことを感じさせるセッションだった。