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 5~10年後を視野に入れた新規回路技術を紹介するTechnology Directionのセッションの一つであるセッション11では,「Trends in Wireless Communications」というテーマで,無線通信に関する技術の発表が行われた。将来の様々な応用に向けた全9件の論文は,大きく分けて将来の高速通信に寄与する回路技術,生体に関する通信に寄与する回路技術,RFIDの進化を実現する回路技術の三つに分類できる。

 高速通信に寄与する回路技術として,フランスCEAらは,スピントロニクスを用いたオシレータについて発表を行った(論文番号11.1)。GHz帯無線受信機への搭載を目指し,スピンデバイスの構造の改良とアンプ回路の工夫により,広い周波数レンジ(4~10GHz)で,従来比2桁以上向上した信号出力(-45dBm)を実現した。また,米University of Floridaらは,CMOSでのTHz動作を実現する技術を発表した(論文番号11.4)。THz動作のアプリケーションとしてTHz分光器をあげ,これに必要な技術として,高速動作を可能とするゲート分割ショットキー・バリア・ダイオード構造と,これを用いたダイオード検波回路,push-push型VCOを用いた信号発生回路を提案し,THz動作の可能性を示した。また,THz動作の課題として,信号出力が弱くなる,チューニング・レンジが狭くなる,ノイズの影響が増える(1/fノイズの増大)などを挙げ,これらの克服が重要であるとした。

 生体に関する通信に寄与する技術として,米MITらは,蛾に搭載してUWB通信により蛾の飛行を制御する通信LSIの発表を行った(論文番号11.3)。受信した信号をもとに,電極を介して神経を刺激し,飛行方向を制御する。インバータ・ベースのアンプの改良などにより,0.5~1.4nJ/ビットの低電力動作を実現。ボタン電池で約5時間の動作を可能とした。ビデオ映像を用い,実際に蛾の飛行方向を制御している様子を示した。また,オランダPhilips社は,人体通信のための送受信回路技術を発表した(論文番号11.5)。送受信回路の電極と人体の間の容量結合により通信する。人体のアンテナ効果(FMバンド)の影響を避けるため通信帯域を1~30MHzとし,受信回路の入力インピーダンスを高くして通信にマンチェスタ符号を用いることで通信精度を向上させた。これにより,通信の高速化(8.5Mビット/秒),低電力化(0.32nJ/ビット)を実現した。さらに,米University of Washingtonは,脳神経パルスを送信するタグに関する発表を行った(論文番号11.9)。μVppの神経パルスを増幅するLNAと,遅延回路で遅らせたクロック信号を合成することで搬送波を生成するクロック逓倍回路を用い,FSK変調による神経パルスの送信を実現した。

 RFIDの進化を実現する技術として,スウェーデンRoyal Institute of Technologyらは,パッシブ型RFIDの発表を行った(論文番号11.2)。電力供給とタグへの下り通信にUHF,上り通信にUWBを用いることで,電力の確保と10Mビット/秒以上の高速上り通信を実現した。slotted-ALOHAをもとにした通信方式で,信号の衝突を抑えた通信を可能としている。また,ベルギーIMECらは,有機トランジスタを用いたRFIDの高速化技術について発表した(論文番号11.6)。128ビットROMのデータを,マンチェスタ符号を用いて送信する。信号の衝突回避のため,ALOHAプロトコルも用い,通信速度1529ビット/秒を実現した。また,レーザなどで配線を切断し値を書き込むワンタイムROMを搭載し,RFIDの個別コードの記憶も可能にしている(関連記事)。

 さらに,ドイツPolyIC社は,RFID用有機トランジスタ回路の発表を行った(論文番号11.7)。従来,主にpMOSタイプのみが用いられていた有機トランジスタ回路において,nMOSタイプのトランジスタも用い,CMOSとしたRFID用回路を提案。13.56MHzのキャリア周波数に対応し,4ビットのIDをNRZ符号を用い送信する。3カ月以上放置した後の動作も確認した。また,基盤的技術として,スイスCSEMらは,シリコン・レゾネータを用いたクロック回路の発表を行った(論文番号11.8)。温度補償回路の搭載とレゾネータの負荷容量を動的に調節することで,従来のMEMS等を用いたレゾネータに対し3桁以上低い消費電力(3μA)と,高い精度(±5ppm)を実現した。