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出典:日経エレクトロニクス,2009年04月20日,pp.14-15(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 ホンダの研究子会社であるホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI)と,国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報研究所,島津製作所は,頭の中で思い浮かべた動作を,非侵襲型の脳活動計測装置を用いて高精度に判別するBMI(brain machine interface)技術を開発した。事前に決められた4種類の動作の中からユーザーがどの動作を思い浮かべたかを,脳活動の計測および分析結果を基にして90.6%の正答率で予測できる。従来,4択の識別において60%程度の正答率を実現した事例はあるものの,90%以上の正答率を実現した例は過去にないという。正答率の向上は,2種類の脳計測手法を組み合わせた上で,「SLR(sparse logistic regression)」と呼ぶATR独自の判別手法を用いて実現した。

ASIMOを遠隔操作

 発表会では,ホンダの人間型ロボット「ASIMO」を今回のBMI技術で操作する実演映像を公開した。専用の装置を頭部に装着したユーザーが,頭の中で「右手」「左手」「足」「舌」の4種類の体の部位から一つを選択し,その部位を使った運動を思い浮かべる。これをBMI技術で判別し,判別結果の部位の運動をASIMOで再現するものだ(図1)。例えば,ユーザーが「右手」を使った運動を思い浮かべると,実際にASIMOが右手を上げる。

図1 独自開発の判別手法で精度を向上
図1 独自開発の判別手法で精度を向上
ユーザーが4種類の動作のうち1個を思い浮かべると,それを脳計測装置で感知した後,独自開発の手法で動作を判別する。

 一般にBMI技術は,脳内の情報だけを基にしてユーザーの意向をくみ取る。このため既存のユーザー・インタフェース(UI)のように,手や足,目を実際に動かしたり,発話したりしなくともUIを構成できる利点がある。手足などが不自由な障害者向けの応用が期待されているが,HRIやATRらは健常者向けのUIにも有用とみる。例えば,両手に荷物を持っている際に「開け」と念じるだけでクルマのトランクを開けたり,電車の車内など大声で発話しにくい場面で,頭の中で念じるだけで他者とコミュニケーションしたりといった用途を挙げた。

 ただし,今回のBMI技術はあくまで4択の中から一つのコマンドを識別するものである。ASIMOの動作も事前にプログラムされたものだ。このため,ユーザーが思い浮かべた任意の動作をASIMOがそのまま模倣し,再現できるわけではない。このほか,UIとして実用化するには計測や認識に要する遅延時間が十分短く,リアルタイム性が高いことが必要だが,現状では7秒程度の遅延があり,UIとしての実用には難点がある。「現在はまだ基礎研究段階であり,直近での実用化は想定していない」(HRI)とする注1)

注1)脳活動のパターンには個人差もあるため,今回のBMI技術では実際にユーザーが利用する前に,キャリブレーション用のデータ取得が必要となる。100回程度の試行データを用いて,判別器の学習を行う。あくまで判別器の学習が必要なだけであり,脳内に電極を埋め込む侵襲型BMIのようなユーザー側の訓練・習熟作業は不要である。