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 新しいユーザー体験の開発手法として,「フィジカル・コンピューティング」という考え方が注目されている。2009年7月18日~20日に掛けて英国ロンドンで開催されたフィジカル・コンピューティングのカンファレンス「Sketching in Hardware」について,同分野の研究者・開発者である小林茂氏にレポートを寄稿してもらった。(昨年のレポートはこちら

会場となったUniversity College LondonのWilkins Old Refectory。建物自体は18世紀に建てられたものをベースにしている。壁面の肖像画と参加者の対比が印象的。
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 今年で4回目となるフィジカル・コンピューティングのカンファレンス「Sketching in Hardware」(ハードウエアでスケッチ)は,初めて北米を離れ,ヨーロッパのロンドンで,2009年7月18日から20日にかけて開催されました。

 フィジカル・コンピューティングとは,もともと「インタラクション・デザイン」を教えるための方法として考案されたもので,まず実際に動くものを作り,試しながら完成度を上げていくというアプローチを取ります。ソフトウエアでいう「アジャイル開発」を,ハードウエアにおいても実践しようというものです。(フィジカル・コンピューティングの詳細については,昨年のレポートをご参照下さい)

 ただし,ハードウエアの場合,ソフトウエアほど簡単にプロトタイプを作成できるわけではありません。このため,センサやアクチュエータ,マイコンなどを手軽に扱えるようにするためのツール・キットが考案されています。代表的なものが「Arduino(アルドゥイーノ)」,そして私が中心なって開発した「Gainer」です。

 今回のSketching in Hardwareでは,このArduinoの世界的な普及,プロトタイピングへの注目の高まり,オープンソース・ハードウェアの盛り上がりといった変化を背景に,さまざまな興味深いディスカッションが行われました。

 日経エレクトロニクスでも1000号記念特集のテーマとして「UGD(User Generated Device)」が紹介されていましたが,このUGDとも深く関連する動きです(1000号記念特集前編後編)。ここではカンファレンス中に行われた約40件の発表の中から,発表順に一部をピックアップしてレポートします。

Dave Vondle氏(IDEO)
IDEOにおけるオープンネス

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 米IDEO社は先進的なデザイン・ファームとして世界から注目を集め続けていますが,若いデザイン・エンジニアが中心となって積極的に活動しており,オープンソース・コミュニティとデザイナーとの間の橋渡し的な役割をしています。

 通常,デザイン・ファームはクライアントから依頼された仕事を請け負うため,その仕事内容は公開されないことがほとんどです。しかし,IDEOではIDEO LabsというウェブサイトやGoogle Codeでプロトタイピング用のツールなどを公開しています。また,米BUG Labs社のオープンソース・ガジェット「BUG」のリデザイン・プロジェクトのように,アイデア発想からプロトタイプ制作まで,デザイン・プロセスそのものをブログで公開するといった試みも行っています。

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 プロトタイピングという重要なステージで使用するツールを公開することの利点として,「公開することでツールを最新の状態に保つことができること」,「コミュニティからの率直なフィードバックが得られること」を挙げていました。Vondle氏らはArduinoなどのオープンソース・ツールによる教育を受けた最初の世代ということもあり,積極的にオープンソース・コミュニティと関わっていく意欲が感じられました。

 こうした試みは,それぞれのデザイン・ファームの先進性や実力を示すことにもつながりますし,今後,こうした試みが他のデザイン・ファームやメーカーに広がることで,新しいプロダクト作りの流れにつながるのではないかと思います。