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 新しいユーザー体験の開発手法として,「フィジカル・コンピューティング」という考え方が注目されている。2009年7月18日~20日に掛けて英国ロンドンで開催されたフィジカル・コンピューティングのカンファレンス「Sketching in Hardware」について,同分野の研究者・開発者である小林茂氏にレポートを寄稿してもらった。(昨年のレポートはこちら

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臼井 旬氏(ヤマハ)
TENORI-ONのプロトタイピングプロセスを紹介

 ヤマハで研究開発を担当する臼井氏は,独特のユーザー・インタフェースを持つ電子楽器「TENORI-ON」のプロトタイピングのプロセスについて紹介しました。TENORI-ONは,メディア・アーティストの岩井俊雄氏とヤマハのコラボレーションによって開発され,文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門大賞など多くの賞を受賞しました。

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 臼井氏は5年間に渡る同製品の開発プロセスを詳細に紹介しました。TENORI-ONはプロトタイピングの各段階ごとに,ミュージシャンやユーザーに実際に体験してもらい,そのフィードバックを基にしてさらに改良を加えるプロセスを繰返しました。その結果,追加された機能もあれば,削られた機能もあります。例えば,加速度センサは比較的後期のプロトタイプまで残されていましたが,ユーザー・テストの結果を反映し,最終的な製品からは削除されたそうです。

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 製品の機能を「削る」というのは難しい判断で,特に加速度センサのように「とりあえずつけておけば,何かに使えるのでは」というものは削られずに残され,結果として製品が複雑なものになってしまいがちです。

 しかし,実際の製品と同様な体験が可能なプロトタイプを通じてユーザーからフィードバックを得られれば,自信を持ってこうした判断を下せます。これはプロトタイピングの大きな効果だと言えます。その半面,完成度の高いプロトタイプを作るためには時間とお金が必要になり,あまり時間をかけすぎてしまうとプロトタイピングの意味が薄れてしまいます。「適切なレベルのプロトタイプを短時間で作る」というのは今後の製品開発を考える上で重要な要素になってくるのではないかと感じました。
なお,このカンファレンスに日本のメーカーが参加するのは初めてで,そうした意味でもヤマハの先進的な取り組みへの理解と意欲が感じられました。

André Knörig氏(Fritzingプロジェクト)
デザイナー向けのプリント基板CAD

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 「Fritzing」は,デザイナー向けのオープンソースのプリント基板CADです。オープンソース・ハードウェアではドイツCadSoft Computer社の「Eagle」が用いられることが多いのですが,これは非商用限定で無償利用できるライセンスがあることが大きな理由だと思われます。

 Fritzingは通常のCADソフトにある回路図と基板に加えて,ブレッド・ボードというビューが用意されているのが大きな特徴です。これによりブレッド・ボードで実際に部品を差し替えながら動作を確認し,回路図を作成できます。デザイナーがエンジニアとコミュニケーションするために使ったり,カスタムの基板を気軽に作ったりできます。さらに,教育用のコンテンツ作成や,プロジェクトの公開/共有機能も備えています。

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 Fritzingは私も実際にドキュメント作成のために使っていますが,ブレッド・ボード・ビューはとても便利です。同様の説明図は「Illustrator」などのドロー・ソフトでも作成することができますが,Fritzingの方が数倍速く作業できますし,回路図に切り替えてチェックすることで,配線ミスもすぐに見つけることができます。細かな不具合もまだありますが,ハードウエアにおけるデザイナーとエンジニアの「共通言語」となる可能性を十分に感じさせるプロジェクトだと思います。