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電事連 電力技術部長の藤井裕三氏
電事連 電力技術部長の藤井裕三氏
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対策コストはシナリオ次第

――電事連は2008年5月に,「既存の電力網に対策なしで連携できる太陽光発電システムは1000万kW(10GW)まで」と発表している。この数字は,これら周波数変動と電圧上昇の課題から計算したものか。

藤井氏 それだけではない。1000万kWというのは,直接的には3番目の課題,つまり余剰電力を吸収できるかどうか,という観点で算出した値である。電力網には,大きな周波数変動や停電を引き起こさないためにも,電力需要の変動に応じて発電出力を調節するシステムがある。火力発電と揚水発電だ。発電容量の中で,これらのシステムで需給バランスを保てる容量が1000万kWだった。具体的には平成20年(2008年)時点の電力供給計画を2020年に延長した場合のデータに基づいて算出した。太陽光発電システムは全国に偏りなく設置されるという前提を用いている。

――1000万kWという導入可能量の上限に関しては,一方で異なる見方もある。例えば新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,2008年に独自の計算で「約8800万kWまで太陽光発電を導入しても既存の電力網で対処できる」という研究結果を発表している1)。こうした見解について,どのように考えているか。

藤井氏 NEDOの算出値は,電力需要が季節変動することを十分考慮に入れていないのではないかと思っている。十分な電力需要がある真夏に,太陽光発電が8000万kW超の出力をしても問題ないという議論なら,話は分かる。真夏のピーク時の電力需要は約1億8000万kW(180GW)と大きいからだ。ところが,電力需要が減少する,春秋の日曜日や年末年始などは,電力需要規模自体が1億kW(100GW)程度にとどまる。一方で,ベース電力である原子力発電と水力発電だけで6000万kWが発電されている。この場合,余剰電力の吸収可能容量は当然小さくなる。電力網を365日運用する観点から言うと,真夏だけのデータでは十分ではないと考えている。

 もう一つ,ほかの算出値と我々の算出値が異なる理由として挙げられるのは,原子力発電である。我々は2020年までに,9基の原子力発電システムを増設する計画を進めている。原子力発電を増やすとベース電力が上がる。このため,余剰電力の吸収可能容量は,さらに小さくなる。つまり,現時点での電力網を前提にすれば,1000万kWより大きな容量の太陽光発電システムも導入可能かもしれないが,2020年ではより制限が厳しくなるだろう。

 現在経済産業省は,2020年までに太陽光発電システムを2800万kW分導入することを目標にしている。それが実現すれば,この1000万kWという上限値を大きく超えてしまう。そのための余剰電力対策として挙げているのが柱上変圧器などの増設と蓄電池の導入だ。ただし,そのためのコストは,太陽光発電による電力をどこまで活用するかのシナリオの違いで(1.6兆円程度から16兆円かそれ以上まで)大幅に変わってくる(経済産業省の「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」関連資料)。これを見る限り,実際の選択では蓄電池に何十兆円もかけるよりは,必要な場合は太陽光発電の出力を抑制する方向になるだろう。どのシナリオを選択し,どこまで対策コストをかけるかは,国民の選択の問題になる。

 比較的容易に実施できる余剰電力対策の一つに,太陽光発電システム中のパワー・コンディショナに入っているカレンダー機能を利用して,5月の連休や年始年末には出力を止めてしまうという方法がある。この手法を活用するだけで,電力網に導入可能な太陽光発電システムは,1000万kWから1300万kWに増えるという試算もある。この機能は国が導入を推奨しており,近い将来,パワー・コンディショナの標準規格の一つになる可能性がある。

 さらには,FMラジオ用の電波などを利用して,前日に翌日の天候を予測し,その予測に基づいて出力を調整するという手法も検討されている。ただし,カレンダー機能を用いる場合も含め,パワー・コンディショナの出力抑制は,太陽光発電システムを設置する側にとっては,せっかく発電した電力が一部無駄になることを意味する。これに対して,どのようにユーザーの理解を得ていくかが課題だ。電波を利用した場合,意図的に電波受信を遮断することで,出力を続けるようなケースが出ないとも限らない。実際の運用までには,解決すべき課題が多くありそうだ。

EVの利用はまだ想定外