情報通信研究機構(NICT)と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は,脳活動を非侵襲に計測することで,ユーザーの指先の動きを連続的に推定し,再現できるBMI(brain machine interface)技術を開発した(発表資料)。従来の非侵襲型BMI技術は,あらかじめ用意した数パターンの動作から正答を推定するものが多かったが,今回の技術では指先の2次元座標(20cmの範囲内)を,50フレーム/秒(20ms)と動画像並みの高いフレーム・レートで連続的に推定することができる。空間精度は14.7mmである。ロボットの遠隔操作などへの応用を見込む。
ATRなどは2009年3月に,ホンダの人間型ロボット「ASIMO」をBMI技術で操作する技術を発表しているが(Tech-On!関連記事01,02),今回のBMI技術もその延長戦上にあるといえる。ASIMOを操作するBMI技術では,判別できるのはあらかじめ想定した4パターンに限られていたが(カテゴリー識別),今回のBMI技術では指先の座標という連続的なパラメータを推定できるのが特徴である。「あらかじめ決められたパターンではなく,素早い動きを滑らかに再構成できるため,BMI技術のユーザーに対し『自分自身が操作している』という主体感を与えられるようになる」(NICT 神戸研究所 バイオICTグループ 今水 寛氏)。
複数の脳計測手法を組み合わせ
ASIMOを操作するBMI技術では,時間分解能の高い脳波計(EEG)と,空間分解能の高い近赤外光脳計測装置(NIRS,光トポグラフィ)を補完的に組み合わせて利用していたが,今回も複数の異なる計測装置を組み合わせるアプローチを採用した。
具体的には,時間分解能の高い脳磁計(MEG)と,空間分解能の高いfMRI(核磁気共鳴計測装置)を組み合わせた。いずれも高価かつ大型の装置だが,将来的にASIMOを操作するBMI技術と同じく,EEGとNIRSの組み合わせでも今回の技術を利用できるようにするという。
脳活動には個人差があるため,今回のBMI技術を利用するには,事前にBMIシステムの学習が必要となる。具体的には,ユーザーに指先を8方向に動かしてもらい,その際の脳活動をMEGとfMRIそれぞれで個別に計測する。ユーザー1人当たり200回の指先運動を,学習データとして用いた。この学習データを基にして,指先の運動を推定するためのモデルを構築するのに,約1日の学習時間がかかる。ただし,学習を終えた後は,高速に指先の運動を推定できる。
今回はオフライン型として動作させたが,リアルタイムに動作するシステムも研究中であり,その場合の遅延時間は0.5秒である。遅延時間の大半は, MEGの膨大な時系列計測データを複数のコンピュータ間で転送する時間が占めているという。