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三木ベルテックの社員たちが作った「農場」。野菜を有機栽培している
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生産が回復した今も社員たちは製造業と農業の両立を続けている
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収穫した丸ナスを社員が漬物にした
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 「給料は上がらないのに仕事は増える一方。この状況、いつになったら改善されるのか」。思わずそんなグチが口を突いて出た技術者も少なくなかったのではないだろうか。2010年は、ものづくりの現場にとって過酷な1年だった。2008年秋のリーマンショック以降、多くのメーカーが人員削減を実施。2010年初に生産が戻り始めてからも、メーカーが人員補充に踏み切ることはほとんどなかった。これによって日本のメーカーが失ったものとは何か。それは、働き手の「心」であったように思えてならない。

 そう考える理由の1つは、仕事の「つまらない化」だ。製造業に従事する人を対象に、日経ものづくりが2010年6月下旬~7月初旬に実施したアンケートによると、コア業務、付帯業務ともに、創造性を必要とする仕事よりもルーチンワークが増えていた。最も多かった回答は「コア業務の中でもルーチンワーク」で、全体の57%に上った(回答数は230、複数回答)。

 時間は有限である。働き手1人当たりのルーチンワークが増えれば、それだけ働き手にとって創造性を発揮できる機会が減ることは言うまでもない。研究開発や設計、生産技術、製造など、ものづくりの現場で働く人たちが「無から有を生む楽しさ」を仕事に求めていると仮定するなら、この傾向は働き手のヤル気を削ぐだろう。

 そしてもう1つ、メーカーが働き手の心を失ったと思える理由に2009年の実体験がある。製造現場において、2008年から2010年にかけての仕事量の変動は著しかった。取材先工場の多くが、2008年秋~2009年秋の約1年間は「稼働率がそれ以前の約4割に急落した」と話していた。長年、苦楽を共にしたベテラン作業者の多くが工場から姿を消し、派遣労働者の数も急減したことに「寂しさを感じる」と話す工場管理者も多かった。2010年に生産量は戻ったものの、この実体験は働き手の心に、雇い手に対する「不信感」を残したことは言うまでもない。

 この期間に経営陣が何をしたか。これがそのメーカーの「2010年」を大きく左右した。2010年9月号の特集「人手不足を打ち負かせ~『創造カイゼン』」では、低迷期を「正しく」過ごしたことで、2010年の生産増にうまく対応できたメーカーの取り組みを取り上げた。それらの企業に共通していたのは、働き手の心のケアを怠らなかったことではないかと筆者は受け止めている。

 例えば、建設機械や工作機械のカップリングなどを製造する三木ベルテック(本社・山形県米沢市、電動機器メーカー)。同社は2009年4月、約40人の社員の余った時間を使って農業を始めた。国から助成金を受けたからこそ実現できたとはいえ、この判断は社員たちの心をつなぎとめる役割を果たした。社員が一丸となって農業に汗を流したことで、強い連帯感と企業への愛着心が芽生えたのだ。この経験は2010年に生産量が回復した時に存分に生きた。部門間の隔たりの無いカイゼン活動を実施し、臨時の人材を雇わなくても今まで以上の仕事をこなせる体制を築くことに成功したのだ。

 ものづくりと言っても、それを実施しているのは人だ。景気低迷期を乗り切るために多くのメーカーが、短期的な視点から人づくりをあきらめてしまったように見受けられた1年だった。2011年は、その「結果」がさらに如実に現れる1年になるような気がしている。