米Silicon Integration Initiative, Inc.(Si2)がパワー・フォーマット「CPF(Common Power Format)」のversion 2.0を2011年2月15日に発表した(Tech-On!関連記事1)。発表によれば(ニュース・リリース),CPF 2.0の最大の特徴は,業界のもう一つのパワー・フォーマット「IEEE std.1801-2009」(旧:UPF:Unified Power Format 2.0)」との互換性を取ったことである。
「互換性を取ったことだけが,CPF 2.0ではない。機能向上も図った」。こう主張したのは,米Cadence Design Systems, Inc.のPete Hardee氏(Director, Solutions Marketing)である。同氏は,3月11日に新横浜で日本ケイデンス・デザイン・システムズとイノテックが主催した「Low Power Solutionセミナー 2011」などのために来日した(同セミナーは,東日本大震災により途中で中止になった)。筆者は,その前日に短い時間だが,Hardee氏に話を聞くことができた(図1)。
CPFの基本はパワー・ドメイン
CPFとUPFがほとんど同じだという話はよく聞くが,同氏によれば,根本的なところで両者には大きな違いがある(図2)。すなわち,CPFの基本は,パワー・ドメインの定義にあるという。チップ全体を複数の電源領域に分けて,各領域の電源や消費電力に関連した仕様を記述する。一方で,UPFには,当初(UPF 1.0),パワー・ドメインという考え方が無かったという。各電源線を定義していく,すなわち,電源線のネットリストをベースにしていると,Hardee氏は説明した。
UPFは2.0になって,パワー・ドメインが定義できるようになった。ただし,UPFは,各電源線を定義していくスタイルがベースになっているために,RTLからゲート・レベル・ネットリスト,配置配線後と設計が進むに従って,記述を大きく変える必要があるという。一方で,CPFは,RTLからゲート・レベル・ネットリスト,配置配線後と設計が進んでも,記述はほとんど変えないで済むとする。
次に,Hardee氏に,Si2がCPF 2.0の目玉としたUPFとの互換性のポイントについて聞いた(図3)。例えば,UPF 1.0と同様に「電源線を一般のネットとして扱える」仕様を追加した。また,電源ドメイン間にアイソレーション・セルやレベル・シフタを強制的に置けるようにもした。Hardee氏によれば,CPFでは,電源ドメイン間のアイソレーション・セルやレベル・シフタはEDAツールが自動的に挿入することが前提のため,従来は,このような強制配置には対応していなかった。上述の「電源線のネット扱い」と共に,CPFとしては必ずしも要る仕様ではないが,UPFと互換性を取るための拡張仕様ということだろう。
アナログもカバー
Si2の発表にはなかったが,CPF 2.0では,UPF 2.0との互換性を取るための拡張に加えて,それ以外の拡張もあった(図4)。Hardee氏によれば,その中で最も重要なのはマクロ・モデリング機能の強化だという(図5)。マクロ・モデリングとは,ブラック・ボックス(中身が定義されていない/中身が見えない)の場合でも,電源や消費電力といった情報を定義できることを指す。マクロ・モデリング機能によって,中身が決まっていない段階での設計・検証や,IPコア・プロバイダの知的財産権保護などが可能になるとする。
Hardee氏によれば,マクロ・モデリング機能はCPFの特徴で,UPFでは難しいという。マクロ・モデリングに関するCPF 2.0の拡張の目玉は,アナログ・ブロックの対応の強化だとする。実際,Cadenceが3月15日に発表したアナログ/カスタム設計用EDAシステムの最新版「Virtuoso 6.1.5」(Tech-On!関連記事2)では,CPFへの対応が新機能として紹介された。
さらに今回,低電力設計用の汎用ライブラリが増えた。例えば,電源/グラウンド向けのレベル・シフタや,バイパス・レベル・シフタ,マルチ・ステージのレベル・シフタなどが今回から加わった。低電力設計向けに半導体メーカーなどが,基本+αの回路を設計しているが,こうした動きにCPFサイドが応えたものである。
話の最後に,Hardee氏が強調したことがあった。「UPF 2.0はIEEE std.1801-2009にはなったが,IEEE std.1801-2009に十分対応できるEDAツールはまだ市場にない。現在あるのは,基本的にUPF 1.0部分に対応した製品だと見ている。一方,我々(Cadence)はCPF 2.0の新仕様への対応を始めており,いくつかは製品に実装済みだ。今後も対応への作業を進め,2011年中には,一部のオプションを除いてCPF 2.0対応製品を提供可能になる」(同氏)。