米IBM社とシンガポールInstitute of Bioengineering and Nanotechnologyは、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に関する新たな治療法を発見したと発表した。発見したとするのは、新たなポリマー(高分子)の分子構造である。このポリマーは、MRSAに代表される、抗生物質に耐性を持つ細菌および感染症を、物理的に感知し破壊することができるという。
MRSAは、抗生物質に対する耐性を獲得した黄色ブドウ球菌であり、病院や体育館、学校など、人が密接に接触する場所で容易に感染する。IBMなどによれば、MRSAに感染することによる脅威は、大きく二つあるという。一つは、現在の治療法では、微生物が抗生物質に対して効果的に耐性を持つように進化する余地を与え、薬剤耐性が起こってしまうこと。もう一つは、多量の抗生物質の投与が必要なため、感染した赤血球だけではなく、健康な赤血球も無差別に破壊される可能性があることである。
これに対して、IBMなどが発見したポリマーは、体内に直接注入したり、皮膚に局所的に適用したりできる可能性があるという。「例えば、一般に販売されている石鹸や手の消毒液、テーブル拭き、防腐剤などを通して皮膚感染を治療したり、傷や結核、肺感染症を治したりできる」(IBM)とする。
今回のポリマーは、感染した細胞に対して磁石のように物理的に引き付けられる性質を備える。この際に、感染した細胞の周りにある健康な細胞を破壊することなく、細菌を選択的に死滅させる(細胞壁や隔壁を突き破る)ことができるという。これにより、細菌が抗生物質に対する耐性を持つように進化することを防げる。また、ポリマーは生分解性であるため、臓器に残ったり蓄積されたりすることなく人体から自然に排出されるという。
今回の発見は、半導体製造に使われる原理を応用することで実現したという。既に、中国の浙江大学 医学部付属第一医院 伝染病診国家重点実験室により、臨床微生物サンプルに対して臨床試験が実施されたという。今回の研究成果に関する論文は、「Nature Chemistry」誌の最新号に掲載される。