国際レスキューシステム研究機構(IRS)、千葉工業大学、東北大学、情報通信研究機構、産業技術総合研究所、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、福島の原子力発電所の事故に対しての適用を想定した「閉鎖空間探査用レスキューロボット『Quince』」を緊急開発した。要請があれば提供する準備があるという。
このロボットは、IRSなどがこれまで研究開発してきた同名のレスキューロボットを改良したもの。放射線の量や建屋内の状況などの情報が不足しているため、実際に適用可能かどうかは不明だが、2km離れた遠隔地から建屋内の探査が可能なように改良を施している。さらに、宇宙ロボットの専門家などのアドバイスに基づき、ロボットに対する放射線の影響を少しでも減らせるような工夫も盛り込んでいる。Quinceは、もともとがれきや階段を移動する優れた走行性能を備えており、サーモグラフィ、放射線測定器、パン/チルト/ズームが可能なカメラ、3次元スキャナなどを搭載できる。ベースとなる走行部は防水性も備えている。
2km先からの遠隔操作を可能とするために考えたのが、まず2台のロボットを使用する方式。1台を建屋の入り口に停止させて中継ロボットとし、同ロボットから光ファイバで建屋内に進入するもう1台のロボットと通信するというもの。中継ロボットに1Wと高い出力を持つ無線機を総務省の許可を得て搭載しており、オペレーターは中継ロボットを介して建屋内のロボットと通信する。光ファイバには、600Nの張力に耐えられる樹脂製のものを採用し、長さは200mという。
もう1つが、大容量のバッテリと無線機を搭載した可搬型の中継パレットと建屋進入用のロボットを組み合わせる方式。無線機は上記と同じものを使うが、中継パレットとロボットの通信には電力を供給可能なPOE(Power Over Ethernet)ケーブルを使う。同ケーブルは25Wの電力供給が可能。Quinceの連続駆動可能時間は通常、走行を続ける場合で約2時間、定点動作で約6時間だが、中継パレットから電力を供給することでより長時間の動作が可能となる。
放射線環境下での動作を考慮した工夫としては、現状では、撮像素子の寿命が短くなると考えられるカメラをレンズ部分などを除き厚さ1mmの鉛板で覆ったり、撮影も鏡を介して実施してなるべく放射線を受けないように配慮したりといった対策を考えている。もっとも、これらについては、現地の状況に合わせてさまざまな対策を追加で講じていくことが必要となる可能性もある。