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川崎重工業の田中雄二氏
川崎重工業の田中雄二氏
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非常用ガス・タービン発電機(出力4000kW)
非常用ガス・タービン発電機(出力4000kW)
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 東日本大震災に伴う停電や、東京電力などによる輪番停電(計画停電)の際、電力を補うため活躍したのが非常用発電機だ。公共施設や通信設備、病院など、24時間停止が許されない施設に必要な電力を供給した。なかでもサーバーやルーターなど大量の業務用IT機器が設置されているデータ・センターでは、高出力のガス・タービン発電機を稼働させることで停電時もシステムをダウンさせずにすんだ。

 だが今夏に電力需要家に課される「ピーク電力の25%削減」は、データ・センターにとっては輪番停電よりはるかにハードルが高い。現在データ・センター事業者の間では、複数の事業者がグループを組み、回り持ちで商用電力をカットして非常用発電機を回す「輪番発電」の実施が検討されている。だが「これまで経験したことがない運用。発電機の保守から燃料の供給体制まで1つでも問題が発生すれば、サービス停止に追い込まれる」(データ・センター事業者)など不安の声が絶えない。電力不足を乗り切るカギを握る非常用発電機の運用について、川崎重工業 ガスタービン・機械カンパニー エネルギーソリューション営業部長の田中雄二氏に聞いた。(聞き手は浅川直輝)



――非常用のガス・タービン発電機はどのような場所に使われているのか。

 24時間停止が許されない施設、例えば官公庁のシステム、通信設備、民間のデータ・センター、病院などに入っている。今回の震災では、通信インフラの復旧のため通信事業者に納入済みの電源車が活躍したが、その電源車に使われるのもガス・タービン型が多い。ディーゼル・エンジン型と比べたガス・タービン型発電機の利点は、小型で大出力を得られること。さらに、空冷式のため冷却水が不要で、断水時でも使える。

――3月の計画停電でデータ・センターを持つ事業者は、停電する3時間だけ発電機を回すことで事業を継続できた。今夏では、「4日に1回、24時間発電機を回す」など、これまでにない運用が求められる。非常用発電機で対応できるか。

 連続運転については問題ないと考える。ただし、累積運転時間が1000時間を超えた場合にはオーバーホール(分解・再組み立て)が必要だ。常時稼働型の発電機と違い、非常用発電機は部品の耐久性に限界がある。例えば、常用型はタービンの軸が滑り軸受けだが、非常用はボール・ベアリングを使っている。運転時間が1000時間を超えると、このボール・ベアリングやタービン・ブレードの一部を交換する必要が生じる。

 おそらく、今年の夏は累積運転時間が1000時間に達する発電機が次々に現れるだろう。例えば、1日8時間の運転を30日間続ければ、それだけで240時間に達する。保守の観点では起動1回分を「1時間」と換算するため、この場合は実際には1日9時間、270時間が累積運転時間になる。

――次々にくるオーバーホールの要請に対応できそうか。

 1000時間が経過した発電機は、オーバーホール済みの発電機とまるごと交換することになる。交換に要する時間は1日未満だ。こうした交換用の予備機を、当社は大小あわせて100台以上持っている。夏までにこの数を1.5倍に増やすつもりだ。

 とはいえ、一度に大量の注文が来るとさばききれない可能性はある。オーバーホール作業は1台あたり1カ月ほどかかるため、予備機が足りなくなる事態も想定される。このため、現時点で既に累積運転時間が600~700時間を超えている場合、夏までにあらかじめ交換作業を済ませておきたいと顧客から要望が来ている。

――データ・センターでは非常用発電機の燃料に、軽油と比べ安価なA重油を使うことが多い。だがA重油はもともと生産量が少なく、今夏は需要が供給を大幅に上回る可能性がある。軽油など他の燃料での代用は可能か。

 緊急時対応という前提だが、まず問題を技術的な話、法律的な話に分ける必要がある。純粋に技術的な視点でいえば、我々のガス・タービン発電機は(A重油と成分が近い)軽油を入れても問題は起こらない。今A重油が入っているタンクに軽油をそのまま混ぜてしまっても動作する。燃えるものなら幅広く使えるのがガス・タービン発電機の利点だ。

 ただし、通常と異なる燃料を使う場合、消防法の問題をクリアする必要がある。発電機のタンクには、あらかじめ消防庁に届けた種類の燃料しか入れてはならないからだ。また軽油はA重油と比べ、税金がかかる分だけ高コストになる。燃料の供給体制が整わないとすれば、(規制の緩和など)何らかの緊急措置的な対策が求められそうだ。

■申し入れ
本記事について、川崎重工業から下記の通り申し入れがありました。

取材において当社からは、一般的な非常用発電設備の技術的な特徴、運用上の法規制などについて回答したものです。非常用発電機は万が一の停電に備えて設置されており、当社からデータセンターおよびその他の顧客に対して、節電を目的とした常用発電機としての使用を推奨するものではありません。また、非常用発電機を常用発電機として長時間運転することは法律で禁止されています。

■変更履歴
記事掲載当初、「通信事業者に電源車を数十台提供した」とありましたが、これは「既に納入済みの電源車が活躍した」の誤りです。 オーバーホールへの対応について「夏までにあらかじめ交換作業を済ませておくことを顧客に勧めている」とありましたが「顧客から要望が来ている」の誤りです。お詫びして訂正します。発電機の交換について当初「データセンターの運営に支障を来たすことはないだろう」との記述がありましたが、これについて川崎重工業から「『発電機の交換が比較的短時間であること』を回答したもので『データセンターの運営に支障を来たすことはない』とは回答していない」との申し入れがありました。申し入れに従い当該表現を削除しました。本文は修正済みです。

 ※電力不足を乗り切るための省エネ、創エネ、蓄エネ技術をまとめた特集記事を日経エレクトロニクス5月2日号に掲載予定です