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奈良先端科学技術大学院大学 教授の加藤博一氏
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奈良先端科学技術大学院大学
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 人間の視界や実写映像に追加情報を重ねて表示する技術「AR(拡張現実感)」は、最近は一般のニュースでも耳にするようになってきた。既にカーナビや携帯電話機/スマートフォンでのARは、珍しくなくなりつつある。

 例えば、パイオニアのカーナビ「カロッツェリア サイバーナビ」(関連記事)や、NTTドコモがAndroid端末向けにリリースした「直感ナビ」である(関連記事1関連記事2)。

 技術の進化も続いている。ソニーは6月、同社の犬型ロボット「AIBO(アイボ)」などで培った空間認識技術とARのマーカーレス技術とを統合した「統合型AR(SmartAR)」を開発した(日経エレクトロニクスの関連記事)。実用化の時期は明らかにしていないが、近い将来、スマートフォンなどで利用可能になるはずである。

 遅延が小さいLTEが普及すれば、ARの使い勝手はさらに増し、利用のすそ野が大きく広がるだろう。

 しかし、一方でARはまだ発展途上の技術で、応用先をさらに広げるには、いくつも課題がある。今回は、ARのマーカー技術、つまり2次元バーコード状の目印(マーカー)を、映像の重畳の位置合わせに利用するライブラリ「ARToolKit」を開発したことで知られる奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授の加藤博一氏に、最近のARの技術的課題を聞いた。(聞き手は、野澤哲生=日経エレクトロニクス)。

――現時点のARの最大の課題は何だと考えるか

加藤氏 2次元バーコードを使わない「マーカーレス」の場合に、位置合わせ技術の精度や信頼性がまだ低いことだ。我々はARを、実際の作業支援のツールとして本当に役立つものにしたいと思っている。例えば、医療、特に手術や、原子力発電プラント内での作業支援だ。手術の支援にARを使えば、切除する臓器の部分を臓器自身に表示することも可能になる。原発での作業支援では、必ずしも現場に詳しい専門家でなくても、プラント内の構造の把握や装置の操作がARで可能になるというメリットがある。見えない放射線をARで可視化することも可能だろう。

 ところがこうした作業では、位置合わせの精度や信頼性に対する要求水準が非常に高い。具体的には、手術の支援では、切除する臓器の位置の表示が1mmずれたら医療事故につながりかねない。原発での作業支援では、数多くの装置のスイッチの中から、オンにすべきスイッチを指し示す矢印の位置がずれたら、やはり大変なことになる。

――現在の技術ではまだ足りないと。

加藤氏 一般的な場合はよくても、いくつかの特殊な状況では精度や信頼性が急に低下することがある。例えば、映像を重畳する対象が真っ黒だったり、真っ白だったりしてカメラに映る特徴が少ないと、立体的な形をうまく把握できず、正確な位置合わせが難しくなる。我々は今後4年間で、高い精度と信頼性が要求される状況での位置合わせ技術の高度化について研究する計画だ。こうした厳しい状況でも対応できるようになって初めて、ARが本当に社会で役に立つツールになるといえる。

――精度や信頼性以外での課題は

加藤氏 画像認識技術との統合だ。これまでARの位置合わせ技術は、画像認識技術とは別系統の技術を用いていた。例えば、カメラの前に顔があった場合、それが誰の顔かを判別するのではなく、カメラからの距離や顔の向きを正確に把握することが重要だった。

 ただし、今後は画像認識技術も必要になる。その顔が誰の顔かが分かれば、個人に応じた情報の重畳などが可能になるからだ。今後は、画像認識系の人とも積極的に協力していきたいと考えている。