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 東京大学発ベンチャー企業のアドバンスト・ソフトマテリアル(ASM、千葉県柏市)は、ゴム硬さが30以下と非常に柔らかく、永久歪み量が1%以下とほとんどへたらない新型エラストマー「セルム・エラストマー」シリーズを開発し販売を始めた。同シリーズは無溶媒・1液型のエラストマーの熱硬化性樹脂であり、“生地”(基材)として販売を始めている。主な用途は振動保護や制震、防音、衝撃吸収向け材料などが想定され、各ユーザーが生地を各自の用途の仕様に合わせるように調整することを想定している。透明性が高いので光学用途も考えられている。現在は「S1000」「M1000」などを代表グレードとして上市済みである。

表1●セルム・エラストマーシリーズの「S1000」「M1000」の機械的性質の一部(アドバンスト・ソフトマテリアル提供)
表1●セルム・エラストマーシリーズの「S1000」「M1000」の機械的性質の一部(アドバンスト・ソフトマテリアル提供)
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 「セルム・エラストマー」が、これまでのエラストマーの常識を覆す高性能を発揮する理由は、ASM創業のきっかけとなったコア技術の「スライドリングマテリアル」(Slide-Ring Material)という高分子の構造が効果を上げている。スライドリングマテリアルは、細長い機軸となるような高分子の中に、リング形状の環状分子をネックレスのように通した独自の分子構造を持つ(図1)。「ある種の架橋点となっているリング部分が滑車のように滑ることで、さまざまな性質を発揮する仕組み」(原豊ASM代表取締役社長)という。また、「リング形状の環状分子が互いに反発しあう“空気バネ”のような効果も効いている」と推定している。

図1●スライドリングマテリアル(Slide-Ring Material)の機構模式図(アドバンスト・ソフトマテリアル提供)
図1●スライドリングマテリアル(Slide-Ring Material)の機構模式図(アドバンスト・ソフトマテリアル提供)

 この結果、この新型エラストマーは(1)使用可能温度は-20数~120℃とウレタンエラストマーよりも広く使える、(2)圧縮永久歪みがほぼゼロなのでへたらない、長時間の変形に対してもほとんど変化しない、(3)広範囲な周波数帯で優れた振動吸収能を持つ、(4)波長450nm以上では光透過能が90%以上あると、優れた光透過率を持つ――などの特徴を持っている。同社は「S1000」「M1000」の耐薬品性なども、物理的性質として同社による試験結果データを発表している。

 「セルム・エラストマー」シリーズは、150℃で5時間の熱処理を加えると熱硬化する生地(基材)である。ゴムなどの熱硬化性エラストマーに添加して成形する“改質剤”としての用途も可能である。「溶媒希釈を前提とした2液混合型の生地も求めがあれば提供できる」(原社長)と説明する。

 ASMは、2010年10月に宇部興産と、スライドリングマテリアルの事業化に関する包括的提携を締結済みだ。「事業化を促進するマーケティングや製品企画・開発などの面で包括的に提携した」としか包括提携の内容は公表していない。今回の「セルム・エラストマー」シリーズの発売では、この宇部興産との包括的な提携が効果を上げていると推定できる。

 スライドリングマテリアルそのものは、ASMの取締役を務める、東大大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授が2000年に発見した研究成果である。このスライドリングマテリアルの研究成果を事業化する目的で、ベンチャー企業のASMが2005年3月に設立された経緯がある。このスライドリングマテリアルの基本特許は、日本、米国、欧州、中国で既にそれぞれ成立済みである。