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図1●SiO2ナノ中空粒子を含む断熱層を適用したフィルムを用いる断熱ガラスの模式図。名工大の藤教授の研究グループが開発したプロトタイプモデルの模式図
図1●SiO2ナノ中空粒子を含む断熱層を適用したフィルムを用いる断熱ガラスの模式図。名工大の藤教授の研究グループが開発したプロトタイプモデルの模式図
画像と図は名古屋工業大学提供

 名古屋工業大学セラミックス基盤工学研究センターの藤正督センター長・教授の研究グループは、SiO2(シリカ)製のナノ中空粒子を樹脂内に均一に分散させる技術を開発し、窓ガラスなどに貼る断熱フィルムに応用する基盤技術を確立した(図1)。

 この基盤技術を用いて、共同開発の相手企業のグランデックス(岐阜県関市)は透明断熱フィルム向けの分散原料溶液を事業化した。高機能材料メーカーである同社は、樹脂溶液内にSiO2ナノ中空粒子を分散させた塗布溶液を製品化し販売し始めた。SiO2ナノ中空粒子が分散した塗布溶液を、機能性フィルムメーカーの東洋包材(東京都千代田区)が断熱フィルムの断熱層に適用し、窓ガラスなどに貼る断熱フィルムとして実用化した(Tech-On!関連記事)。

 藤教授の研究グループが開発したSiO2ナノ中空粒子は、角砂糖のような四面体の炭酸カルシウムのコア粒子(テンプレート)を基につくる。エタノールとアンモニア水溶液の混合溶液の中に、TEOS〔Si(OC2H5)4、正ケイ酸四エチル〕というアルコキシドを混合した後に、炭酸カルシウムのコア粒子を投入すると、コア粒子の表面にアモルファス状のSiO2層がコーティングされる。ケイ素(Si)と酸素(O)の両原子を含むTEOSがゾルゲル反応によって加水分解され縮合反応を起こし、コア粒子表面にアモルファスSiO2のコーティング層をつくるからだ。

図2●SiO2のナノ中空粒子の電子顕微鏡写真。コア粒子となった炭酸カルシウムの四面体の角が表面エネルギーなどによって少し丸くなっているため、この中空粒子も角が少し丸くなった四面体になっている
画像と図は名古屋工業大学提供
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 コア粒子の四面体の大きさは1辺が約10~300nmであるため、ナノ中空粒子の1辺の大きさも約10~300nmとなる(図2)。「ナノ中空粒子の粒径(粒度)は粒度分布をかなりそろえることができる」と、藤教授はいう。

 ナノ中空粒子になる仕組みは、コア粒子の表面にSiO2層ができ始めると、「アモルファス状のSiO2層には微細な穴が最初のころは開いており、ここから核粒子成分の炭酸カルシウムが溶液中に溶け出していき、中空になる」と、説明する。中空粒子であるため、熱伝導率を低く抑えることができる仕組みだ。

 ナノ中空粒子の実用化を考えた藤教授は、SiO2ナノ中空粒子が樹脂内に均一に混ざらないと役に立たないと考え、ナノ中空粒子の表面を樹脂と結合するように改質した。ナノ中空粒子を分散させる樹脂にウレタン樹脂を選んだ場合は、イソシアネート基を持つカップリング剤で表面改質する基本技術を開発した。

 共同研究相手のグランデックスは、SiO2ナノ中空粒子をつくる基本となるゾルゲル反応の加水分解と縮合反応を用いる点は同じだが、「企業の事業化ではコストや収率などを考えて工夫を加え、アルコキシド物質などを検討した」と、藤教授はいう。同様に、SiO2ナノ中空粒子を樹脂に均一に分散させる基本技術として、イソシアネート基を持つカップリング剤で表面改質する方法を名工大と共同開発したが、グランデックスは実用化時には、性能とコスト面を勘案した独自のやり方に変えている。藤教授は「グランデックスは当大学の研究成果を単純に技術移転を受けるのではなく、十分に“そしゃく”し、企業の生産技術として改良している点が優れている」と、説明する。

 名工大とグランデックスは、SiO2ナノ中空粒子を断熱層に応用する方法について、平成22年(2010年)2月に国内で特許を共同出願した。同社は名工大が保有するSiO2ナノ中空粒子関連の特許群について、包括的な実施許諾契約を締結した。

 窓ガラス向けなどの断熱フィルムをつくる東洋包材は、基材のフィルムと断熱層の間に、反射層を挿入して製品化している。このため、グランデックスは反射層としっかり結合する表面改質を施し、SiO2製ナノ中空粒子を分散させた断熱溶液を東洋包材に供給している。東洋包材は。この断熱溶液をガラスの反射層の上に塗布し、断熱層を形成している。

 この名工大の藤教授とグランデックスの共同開発は、科学技術振興機構(JST)が平成19年度(2007年度)に採択し同20年度~22年度(2008年~2010年度)に研究成果最適展開支援事業(通称、育成研究)で3年間にわたって支援されたことが「実用化の推進に大きく役立った」と、藤教授は語る。

(注)「研究成果最適展開支援事業」は、採択当時は名称が「地域イノベーション創出総合支援事業」と呼ばれていた