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開発したLSI
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技術の概要
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冗長度の比較(ソニーの資料)
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 東京工業大学とソニーは、1チャネル(帯域幅2.16GHz)当たりの伝送速度が6.3Gビット/秒のミリ波通信向けのトランシーバを開発した(発表資料)。「ISSCC 2012」(2012年2月20~23日:米国サンフランシスコ)で発表する[論文番号:12.3]。

 60GHz帯を用いる無線通信向けであり、ベースバンドLSIなどのデジタル部をソニーが、RF用LSIなどのアナログ部を同大大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 教授の松澤昭氏および准教授の岡田健一氏らの研究グループが、それぞれ開発した。6.3Gビット/秒の伝送速度は、1チャネルの帯域幅が2.16GHzのミリ波無線通信として世界最高という。

 東工大は2011年のISSCCにおいて、同じく60GHz帯向け無線通信ICの発表をしている(Tech-On!関連記事)。このときはRF用LSIのみだったが、今回はこのRF用LSIに改善を加えた上で、ベースバンド部分についてもソニーが新規に開発し、ミリ波通信用トランシーバとしての体裁を整えた。これらにMAC制御回路などを付け加えれば、商用にも利用可能な統合度合いとなる。製品化は「数年以内を目標に検討」(ソニー)しており、デジタル機器間で動画などをやり取りする用途を狙う。

パイロット・ワードを省きLDPCの冗長度を7%に大幅削減

 ベースバンドLSIでは、6.3Gビット/秒という高い伝送速度を低消費電力で実現するため、誤り訂正符号のLDPCの冗長度を従来よりも大幅に下げたり、パイロット・ワードを省いたりすることで、伝送速度や実効的な電力効率を高めた。

 一般にミリ波無線通信では、誤り訂正符号に30~50%の冗長度を付与している。例えば、WirelessHDでは56%、WiGigでは33%である。今回のベースバンドLSIでは、独自のLDPC符号を開発したことで、わずか7%の冗長度でも実用的な通信が行えるようにした。具体的には、復号後誤り率が1×10-11の水準になってもエラー・フロアが見られなかったという。

 また、一般に無線通信ではシンボル同期などのためにパイロット・ワードを周期的に挿入するが、今回のベースバンドLSIでは、デジタル補正技術の活用によりパイロット・ワードがなくともシンボル同期を可能にした。

 パイロット・ワードは無線通信の規格上、その長さなどが規定されている。単純に省いてしまっては通信が成立しなくなるが、無線PANなど向けのミリ波通信用国際規格「IEEE802.15.3c」には、ソニーらの提案によりパイロット・ワードを省略する規定がオプション仕様として盛り込まれているという。

ミリ波通信の全4チャネルに対応

 RF用LSIは、2011年の東工大の発表では60GHz帯無線通信で規定されている2チャネルのみに対応していたが、今回は全4チャネルで16QAMの多値化に対応させた。ダイレクト・コンバージョン(DC)方式を採用している。

 DC方式において4チャネルに対応させるには、局部発信器(LO)の位相雑音を広い周波数範囲で低く保つ必要がある。東工大は2011年のISSCCで、注入同期型のLOを発表しているが、今回は折り返し型の構造を導入し、さらにIQの両側を対称型のレイアウトとすることで、位相雑音を低く保ちながら、広帯域化を実現した。なお、注入同期型とは、キャリア周波数(60GHz帯)より低い周波数帯(20GHz帯)のPLLで位相雑音の低い基準信号を生成し、これを60GHz帯に逓倍して利用するものである。EVMは-23dB、RF用LSI単体(誤り訂正前)の伝送速度は1チャネル当たり7.0Gビット/秒(16QAM利用時)である。

 RF用LSIは65nm世代のCMOS技術、ベースバンドLSIは40nm世代のCMOS技術でそれぞれ製造した。RF用LSIの消費電力は、送信時が319mW、受信時が223mW。ベースバンドLSIの消費電力は、送信時が196mW、受信時が398mW(いずれも16QAM利用時)。

 なお、今回の研究の一部は、総務省の委託研究の一環として実施した。