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図1 開発した低耐圧GaNパワー素子の特徴(図:ルネサス エレクトロニクス)
図1 開発した低耐圧GaNパワー素子の特徴(図:ルネサス エレクトロニクス)
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図2 RonQgのグラフ(図:ルネサス エレクトロニクス)
図2 RonQgのグラフ(図:ルネサス エレクトロニクス)
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図3 オン抵抗に占める抵抗成分(図:ルネサス エレクトロニクス)
図3 オン抵抗に占める抵抗成分(図:ルネサス エレクトロニクス)
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 ルネサス エレクトロニクスは、耐圧200V以下の低耐圧用途に向けたGaNパワー・トランジスタを試作し、半導体デバイス/材料技術の国際会議「2013 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM)」(2013年9月24~27日、福岡市で開催)で発表した(図1)。試作したのは、耐圧30~160Vの素子である。最大の特徴は、従来のGaNパワー・トランジスタに比べて製造コストを抑制しやすいことである。コストを削減できる一因は、Si基板にGaN層をエピタキシャル(エピ)成長させた単層のエピ基板を利用できることにある。従来のGaNパワー素子では、AlGaN層とGaN層を接合させる「HEMT構造」を設けるために、AlGaN層などをエピタキシャル成長させた多層のエピ基板を利用していた。エピ成長させる層数が少ない分、エピ基板のコストが安くて済むという。

 単層のエピ基板の利用が可能になったのは、イオン注入によって素子構造を形成できるためである。GaN層にイオン注入でn型領域やp型領域を設けることで実現する。 こうしてイオン注入によって素子を作製するのは、「低耐圧のSi MOSFETと同じ」(ルネサス エレクトロニクス)である。

 加えて、この製法では、他のHEMT型のGaNパワー素子で必要だったAlGaN層やp型GaN層が不要になるので低コスト化に向くと説明する。AlGaNにおけるAlの組成の制御や、p型不純物の制御などのコスト上昇要因がないからだという。

 イオン注入を利用するので、しきい値電圧の制御性も高く、同電圧の個体ばらつきも小さいとする。これにより、高い歩留まりを期待できる。

 こうした製造面での利点の他、パワー素子の特性面で以下の三つの特徴をうたう。第1に、ノーマリー・オフ動作が可能なこと。試作品のしきい値電圧 は+0.9Vと、同耐圧のSi MOSFETと同水準だという。HEMT構造のGaNパワー素子は、AlGaNとGaNのヘテロ接合の界面に2次元電子ガスが発生し、1500cm2/Vsという高いキャリア移動度を実現できるが、同ガスの存在によってノーマリー・オフ動作を実現しにくくなる。

 今回の試作品は2次元電子ガスが発生しないので、ノーマリー・オフ動作を実現しやすい。同ガスがないので、移動度は約250 cm2/Vsだが、これは同耐圧のSi MOSFETと同程度だとする。

 第2に、ゲート絶縁膜を設けたことで、一般的なSi MOSFETと同じゲート駆動電圧を実現したこと。具体的には、ゲート電圧の定格値を+20Vにした。これにより、一般的なSi MOSFETのドライバICを利用できるという。GaNパワー素子の中には、+20Vのゲート電圧を印加するとリーク電流が大きくなるため、ゲート電圧の定格値が低くなり、専用のゲート・ドライバICが必要になってしまうものがある。

 第3に、ゲート容量が小さいこと。これはGaNパワー素子全般にいえる利点である。パワー素子の性能指標の一つである、オン抵抗とゲート容量の積 (RonQg)は、同耐圧のSi MOSFETに比べて約1/5だという(図2)。RonQgが小さくほど、パワー素子での電力損失が小さい。例えば、耐圧40Vの素子で16mΩnC、耐圧130Vの素子で41mΩnCになるという。

 今回発表したGaNパワー素子の構造は、耐圧200V未満、特に100V以下で効果を発揮するとみている。それは、電界緩和領域(LDD)が短く、オン抵抗に占める「電界緩和領域抵抗」の割合が小さいからである(図3)。2次元電子ガスが発生しない分、電界緩和領域抵抗が高くなるが、低耐圧品であれば、チャネル抵抗やコンタクト抵抗を下げることでオン抵抗を十分に下げられるという。

 一方、耐圧200V以上のGaNパワー素子では電界緩和領域を長く設計しており、オン抵抗に占める電界緩和領域抵抗が大きい。そこで、HEMT構造を設けて同抵抗を下げる方が効果的だと説明する。