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図1 ミリ波帯と2GHz帯の波長の比較(図:富士通)
図1 ミリ波帯と2GHz帯の波長の比較(図:富士通)
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図2 グラウンド面を介した信号の漏れ込み(図:富士通)
図2 グラウンド面を介した信号の漏れ込み(図:富士通)
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図3 上は従来の増幅器、下が開発した増幅器(図:富士通)
図3 上は従来の増幅器、下が開発した増幅器(図:富士通)
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図4 端末利用イメージ(図:富士通)
図4 端末利用イメージ(図:富士通)
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 富士通と富士通研究所は、ミリ波帯(240GHz帯)を使った大容量の無線通信機に向けた受信ICチップの感度を高める技術を開発した(発表資料)。具体的には、受信器を構成する増幅器に関して、漏れ込み信号による発振を防ぎながら、増幅率を向上させる技術を開発した。

 スマートフォンなどによるデータ通信需要の増加に伴い、既存の携帯電話機が使う周波数の100倍以上と広い帯域幅を持つミリ波帯への期待が高まっている。しかし、ミリ波帯(30G~300GHz)の中でも240GHzといった極めて高い周波数になると、空間を伝搬する電波が大きく減衰する。このため、微弱な信号を受信できる感度の高い受信器(アンテナ、増幅器、検波器で構成)が必要となり、受信感度の改善に効果的な、増幅器の増幅率向上などが求められている。

 240GHz帯になると、信号の波長は1mm以下と極めて短くなり、その長さは増幅器のチップ寸法よりも短くなる(図1)。すると、次のような新たな課題が生じる。増幅器のチップ表面に形成されたグラウンド面(電気的な基準面)に増幅器の出力信号の一部が漏れ込み、この漏れ込み信号が増幅器の入力端子へ戻り、再び増幅器に入力される(図2)。再入力された信号は、増幅器で増幅され、さらに大きな漏れ込み信号となって入力端子に再び戻され発振現象が生じ、正常に受信できなくなる。ミリ波で高い増幅率を達成するには、増幅率を損なうことなく、この発振を抑制する技術が必要になる。今回、富士通らは、富士通研のインジウムリン高電子移動度トランジスタ(InP HEMT)技術をベースに、以下の2つの技術を開発した。

発振現象を抑制しつつ増幅器を多段化する技術

 増幅器の漏れ込み信号には、特定の場所で振幅が大きくなる振幅最大点と、全く振動しない振幅ゼロ点がある。増幅器の入力端子の位置が漏れ込み信号の振幅最大点と一致すると、より大きな漏れ込み信号が増幅器へ入力され発振が生じる(図3上)。一方、入力端子が振幅ゼロ点の位置にあれば、漏れ込み信号が全く振動しておらず、増幅器が漏れ込み信号を増幅することはない。そのため、増幅器の入力端子と出力端子の位置を漏れ込み信号の振幅ゼロ点に一致させる(図3下)。このように設計した増幅器を多段に接続していくことで、発振を起こすことなく増幅率を高めることが可能になる。

増幅器の出力信号を効率よく次段へ伝達する技術

 増幅器の出力信号を効率よく次段の増幅器へ伝達するためには、増幅器同士を接続する線路のインピーダンス整合をとる必要があり、そのためには一定の線路長が必要である。しかし、増幅器の入出力端子を振幅ゼロ点の位置に合わせた場合、増幅器の寸法が限定され、それに伴い線路長も特定の長さに限定されるため、インピーダンスの整合が困難になる。今回はU字型線路を導入し、Uの字の縦と横の長さを調整することで増幅器の寸法が限定されてもインピーダンス整合をとれるようにした。

 これらの技術により、受信ICの感度を従来比で約10倍改善できるとする。このICを小型アンテナのスマートフォンなどに搭載した場合、従来に比べて指向性の広いアンテナが利用できるため、送信機に対して端末の角度を厳密に合わせる必要がなく(図4)、ユーザーの使い勝手が向上するという。富士通らは、開発した受信ICを実装するためのアンテナ一体型小型パッケージの開発を進め、2015年ごろまでに伝送実験を行い、2020年ごろの実用化を目指す。