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昨今、「ウエアラブル」という言葉をよく耳にする。この言葉は身に着ける電子機器を指す。最近の例でいえば、米Google社のメガネ型ディスプレイ、ソニーや韓国Samsung Electronics社が発売したスマートフォンと連携する腕時計型端末(スマートウオッチ)がウエアラブルに当たる。スマートウオッチについては、携帯端末向けLSIで大きなシェアを握る米Qualcomm社が開発した「Qualcomm Toq」(クアルコム トーク)も注目される。同社は2013年第4四半期には一般向けに発売する予定だ。9月に写真や一部情報が公開されたものの、詳細はまだベールに包まれている。果たして、Qualcomm Toqにはどんな製品であり、そしてどのような電子部品が使われているのか――。今回、各種機器の分解・分析を手掛ける柏尾南壮氏(フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ ディレクター)がQualcomm Toqに直接触れる機会があったことから、Qualcomm Toqに対する柏尾氏の見立てを語ってもらった。

 2013年10月中旬、米国サンディエゴ市にあるQualcomm本社を訪問する機会を得た。そこで同社が開発中のスマートウオッチの試作品を見せてもらった。限定的ながら写真撮影も許可された。製品についての同社からの解説はごく限られたものであったが、実に情報豊かであった。様々なメーカーがスマートフォンと連動する周辺機器をリリースしており、筆者はそのうち数台は既に分解調査を行った。これらの情報も踏まえながら、Qualcomm社が手掛けるスマートウオッチの特徴を報告する。

(1)1週間稼働する電池
 試作品が搭載する電池は腕時計のバックル部分に搭載されている。恐らくバンド内に配線を施し、時計本体と接続しているのだろう。他の端末では時計本体に内蔵されているものが多いが、この方式ではどうしてもボディーが大きくなってしまう。ボディーを薄くするため電池サイズが制限され、稼働時間は1~2日程度のものが多い。しかし試作品の方式では大きな電池を搭載可能といえる。実際、稼働時間は1週間と長く、これは大きなアドバンテージだ。一方で時計バンドは最初に傷む部分なので、バンド交換の際はどうなるのか気になる。

図版説明
toq試作機の外観
図版説明
バックル部分

(2)直射日光下でも鮮明
 ディスプレイはタッチ・パネル付で、時計機能の他、電話やメールの着信、電文などを表示する。ディスプレイは液晶ではなく、Qualcomm社の独自技術「Mirasol」が使用されている。液晶はLEDバックライトで光を発生させ、液晶分子に電界を与えてブラインドのように開閉して光を通過させて文字を表示する。一方、Qualcomm社のMirasolは、MEMS技術を用いた微細な共振器「IMOD(interferometric modulator)」を画素として使う反射型ディスプレイである。このIMODが動くことにより、見え方が変わる。上から注がれる光を反射して画像を表示するため、直射日光の下でも視認性に優れる。バックライトは不要であり、液晶パネルに比べて消費電力が少なく、長期稼働に寄与していると思われる。筆者が見た試作品はモノクロであったが、市場に流通するタイプはカラー表示となる予定。

図版説明
表示部分

(3)無接点充電
 多くの腕時計型端末では、microUSBまたはヘッドフォン端子などが装備され、ここから充電を行うタイプが多い。しかしQualcomm社の端末にはそのような端子は見受けられず、無接点方式による充電を行うと予想している。デザインの自由度や使い勝手の向上に寄与しているといえる。

(4)主役のBluetooth
 腕時計型端末はBluetoothによる無線通信に対応しており、スマートフォンのBluetoothと無線接続する。スマートフォンに搭載されるBluetooth用ICは、GPSや無線LANと共に混載されており、米Broadcom社や米Texas Instruments社の製品の採用例が多い。しかし腕時計型端末はスマートフォンと連携するためGPS等は不要で、基本的にはBluetoothだけを搭載すると思われる。Qualcomm社は自前でBluetooth単体のICを手掛けており、本機にも自社製品が搭載される可能性もある。ちなみに他の腕時計型端末では、Bluetooth用ICにSTMicroelectronics社およびノルウェーのNordic Semiconductor社の製品が搭載される例が多かった。

(5)センサは?
 腕時計型端末に広く搭載されるセンサとして、万歩計に使われる加速度センサがある。加速度センサは内部にバネのような構造物があり、地面を踏みしめる際に、これが揺れることにより歩数計として機能する。また夜は枕元に置いておけば寝返りを打つときの動きなどを検出することも可能で、睡眠量計にもなる。腕時計型端末は多くの機種で加速度センサが備わっており、Qualcomm社の製品も同様だ。今後、魅力的なアプリをどれだけ充実させてくるかに注目だ。

 スマートフォンと連動しない、つまり従来型のデジタル腕時計には電子コンパスを装備するものがある。これはホール素子を用いた地磁気センサにより実現されている。部品サイズは1.6mm四方で非常に小さく、腕時計型端末への搭載は十分可能だろう。旭化成エレクトロニクスがモバイル用センサのシェアをほぼ独占している。

(6)マイクロプロセサ
 スマートフォンが搭載するマイクロプロセサは32~64ビットで動作周波数1.5GHz前後であるのに対し、周辺機器は16~32ビット200M~400MHz前後である。電源ICなども兼ねるオールインワン・タイプだ。Freescale社やTexas Instruments社などがこの分野で大きなシェアを持つ。メモリも少ない。DRAMは0.5Gビット程度、データを記録するフラッシュ・メモリも、スマートフォン本体にデータを転送するまでの数日間の記憶容量だけあればよいため最小限と思われる。Qualcomm社はスマートフォン用の超高性能プロセサでは有名だが、周辺機器用の守備範囲は未知数で、どのメーカーの製品が採用されているかは開けてみるまで分からない。

(7)製品としての外観
 「スリム」というのが第一印象だ。電池内蔵式モデルはボディーが大きく厚いものが多い中で、一般的なデジタル腕時計と見分けがつかないほどに薄い。手で持ったところ、それほど重たくない。Qualcomm社の発表によれば91gである。バンドは樹脂製で、ボディーはプラスチックと思われる。豪華絢爛ではない。

(8)カメラなし
 ウエアラブル機器にカメラを搭載する否かは大きな論争を呼んでいる。高機能化とプライバシーの狭間で翻弄されている。確かにスマートフォンも動画を撮影する際には音が出ないタイプもあるが、こればかりは論理的な問題というより人の感じ方に左右されるといえるだろう。

 結論として、ファッション・アイテムとして、自分のオシャレな腕時計を外してまで腕時計型端末を使う人は少ないだろう。しかし、ヘルスケア機能に魅力を感じる人が多いのも事実と思われる。米国では既にこの種の製品とタイアップした保険商品も存在する。これまでスマートフォンの内部で鎮座していたQualcomm社だが、これを機に一般消費者市場での認知が進むかもしれない。何よりも電池稼働時間が1週間というのは他社にない優位性で、十分な差異化要因になるだろう。

 なお、取材の最後にQualcomm社の担当者はこう言ったのが印象に残った。「キミのようにスマホが時計代わりの人にも使ってもらいたいネ」。確かに、スマホを時計代わりに使うユーザーにとって、腕時計型端末を併用すればスマホをポケットやカバンから取り出す手間が省けるかもしれない。