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図1:ウエハー・レベル・パッケージングされた放電式圧力センサー(米University of Michiganのデータ)
図1:ウエハー・レベル・パッケージングされた放電式圧力センサー(米University of Michiganのデータ)
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図2:マイクロプラズマFETの構造(米University of Utahのデータ)
図2:マイクロプラズマFETの構造(米University of Utahのデータ)
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 発電所や熱機関の精密制御による省エネルギー,地熱などの地下資源の効率的開発,原子力エネルギーの安全管理などのために,数百℃以上の高温で利用できるセンサーの実現が期待されています(関連記事)。MEMS分野でも,SiC-MEMSセンサーをはじめとする高温センサーが研究されてきましたが,実用にはまだ多くの問題があります。大きな問題の一つはセンサー信号の読み出しにあります(関連記事)。

 普通,センサーは電子回路で読み出しますが,高温ではSiの電子回路が使えません。小さなセンサーは出力インピーダンスが大きいので,すぐ近くに少なくも初段の増幅回路を置きたいのですが,高温ではそれが難しいわけです。

 このような問題に対して,これまでにもいくつかのアイデアが示されてきました。(1)高温でも動作するSiC素子を用いる方法の他,(2)MEMSスイッチを用いたインバーターを用いる方法,(3)放電を利用する方法などです。2番目の方法は,トランジスタや集積回路がない時代,タイガー計算機などの機械式計算機を使っていたことと似ています。

 開催中の「IEEE MEMS 2014」では,放電を用いた圧力センサー(Xin Luo et al., 「FABRICATION OF A MONOLITHIC MICRODISCHARGE-BASED PRESSURE SENSOR FOR HARSH ENVIRONMENTS」),および放電を用いるFET(Pradeep Pai and Massood Tabib-Azar, 「SUB 3-MICRON GAP MICROPLASMA FET WITH 50 V TURN-ON VOLTAGE」)が発表されました。これらは3番目の方法に相当しますが,半導体素子がなかった時代に使われた物理現象による方法という点で,やはり「先祖帰り」とも言えます。

 1901年,Guglielmo Marconiが大西洋間無線通信を実現したときの無線送信は,火花式送信器でした。当時,今のように電子回路で発振させる技術がなかったので,火花放電で電気振動を発生させたわけです。受信にはコヒーラという装置が使われていました。これはガラス管などに金属粉を入れて二つの電極を取り付けたもので,そこに受信信号が入ると,金属粉の電界が集中した部分で放電が起こり,金属粉の酸化膜が除去され,導通状態になります。もう一度,絶縁状態に戻すにはガラス管を叩けばよく,この機構はデコヒーラと呼ばれます。整流素子のない時代,放電を使っていたわけです。

 さて,上述の放電を用いた圧力センサーは,圧力で変化するダイヤフラムと基板とのキャップの変化に応じて放電電流が変化することを利用します。このコンセプト自体は新しくありませんが,今回,ウエハー・レベル・パッケージングされたモノリシック形態(585×540×200μm3)の圧力センサーが試作されました(図1)。

 放電を用いるFETは,TiWの表面マイクロマシニングによって作られた電極からなるもので,電極間ギャップは1.5μmと狭く設計されています(図2)。通常,電極間距離を小さくしていくと,いったん放電電圧は下がるのですが,極小点を超えると急激に大きくなり,このことはPaschenの法則(1889年)としてよく知られています。しかし,実際はそうならないことがあり,たとえば,既に東北大学の小野崇人教授らによって詳しく調べられていて(Takahito Ono et al., J. Micromech. Microeng. 10 (2000) pp. 445-451),ここでは電極間距離を小さくすると,Paschenの法則から外れて放電電圧が下がることが利用されています。これによってFETのターン・オン(turn on)電圧,つまり放電電圧が50 V程度に下がったことが報告されました。

 話は脱線しますが,Paschenの法則と同様の現象で,放電電極間距離を小さくしていくと,放電抵抗(火花抵抗)がいったん下がり,さらに小さくすると急激に上がることが知られていますが,このことを利用した改良型の火花送信機もありました。放電電極間距離を小さくすると放電抵抗が急激に上がりますから,そのような電極間では発生した火花はすぐに消えます(瞬滅火花)。その結果,アンテナと火花放電回路とが電気的に切り離され,アンテナの共振で決まる単一周波数の「きれいな」電波が送信できます。

 ここで紹介した技術は,電極の劣化などの問題を乗り越えなくてはならず,すぐに実用化することにはなりませんが,MEMSによって過去の技術が生き返るのは面白いと思います。