「胎児の心電図測定は、家の壁に電極を付けて居住者の心電を取るようなもの」---。東北大学大学院医工学研究科教授の木村芳孝氏は、2014年9月13日に東京都内で開催された第10回REDEEMシンポジウムで、妊婦の体表面の微細信号から胎児の心電図を取り出す技術について講演した。
胎児の健康状態を知るには、心電図を計測するのが望ましいが、胎児の心電図の電位が5~30μV程度なのに対して、母体の筋電図や心電図の電位はそれぞれ300μV、1000μV程度とはるかに大きい。このため母体の大きな信号に埋もれて、胎児心電図を計測するのは難しい。加えて、胎児が動いて電極に誘導される電位が変動したり、妊娠30週前後には胎児心電図の電位が数μVに低下したりすることから、胎児心電図の計測は実質的に不可能とされてきた。木村氏らは、この難題に取り組み、独立成分分析法(ICA)と呼ぶ信号分離技術を利用して胎児心電図の計測を可能にした。
ICAは、宇宙ステーションなどからの微弱な信号を地球の管制が受信するに当たって、大きな雑音などから必要な信号だけを分離する際などに使われている。同氏らは、同手法を改良して、ICAの課題だった解析の不安定性を取り除いて大きなノイズがあっても安定して計測できるアルゴリズムを開発した。併せて電極の材質なども工夫したという。「リアルタイムで胎児心電図を計測できたのは世界初」(木村氏)。現在、メーカーと共同で実用化に向けた開発を進めており、2015年頃には製品化したいとしている。
REDEEMは、東北大学大学院医工学研究科を中心とした医工学・医療工学分野の人材育成を目的とした教育プログラム。基礎医学や医工学、分子細胞生物学、生理学などの講義・実習から成り、新しい医療技術や医療機器の開発を担う技術者を育てることを目指している。第10回のシンポジウムでは、木村氏の他に、同大学院医工学研究科教授の鎌倉慎治氏がリン酸オクタカルシウムを骨の代替材料として利用する研究について、同医学系研究科准教授の亀井尚氏が食道がんの鏡視下手術やロボット手術による低侵襲治療について、同医工学研究科教授の福島浩平氏が潰瘍性大腸炎の外科治療の課題などについて講演した。