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用語解説

 温度を上げると体積が小さくなる負の熱膨張の特性を持った材料のことである(図1)。ほとんどの材料は温度を上げると体積が大きくなる。これは,熱エネルギーによって構成する原子間の距離が広がるためである。しかし,ある特殊な組成と条件では逆の性質を示すことがある。身近な例では,水を0℃から+4℃に昇温した場合に体積が収縮することが知られている。

 構造材料にとって,熱膨張は頭の痛い問題である。体積が増えることにより変形をもたらし,異なる物質の接合界面における剥離や破壊の大きな原因となる。また,高い精度を要求する精密機械部品や光学部品では熱膨張をいかに抑えるかが大きな課題になっている。熱膨張をゼロにするニーズはきわめて高い。


【図1】温度が上がると共に,体積が連続的に減少する現象を「負の熱膨張(負膨張)」という

 熱膨張をゼロにできる可能性をもった材料が負膨張材料である。通常の正の熱膨張を示す材料に負の熱膨張材料を混ぜ合わせることで,熱膨張を相殺してゼロにしようという検討が活発化している。また,負膨張材料の構成元素の種類と比率をコントロールすることで,単一物質でゼロ膨張も可能になるのではないか,と考えられている。

 現在,負膨張材料としてすでに光学部品など向けに実用化されているのが,タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)やシリコン酸化物(Li2O-Al2O3-nSiO2)といった複合酸化物である。線膨張係数(α)は,タングステン酸ジルコニウムが−9μ/℃,シリコン酸化物は−2~−5μ/℃といったところである。なお,ここで線膨張係数とは,熱膨張率(熱膨張により長さが増えた比率)の変化の傾きを指す。こうした複合酸化物で負の熱膨張を示すのは,原子間の結合が強いために温度が上がっても原子間の距離が広がらないのに加え,温度が上がることで無駄なスペースがなくなる状態になるからだと考えられている。

 近年研究が活発化しているのが,金属磁性体の「磁気相転移」を利用して負膨張材料を開発しようという試みである。金属磁性体は高温域では磁性を持たない「常磁性」状態だが,ある温度以下で磁性を示す「強磁性」を示すようになる。その温度を「磁気転移温度」である。 逆ペロフスカイトの結晶構造を持つ窒化物など,ある材料では,常磁性状態の方が結晶構造上体積が小さいものがある。この体積変化が連続的に起こるように調整すれば負膨張材料ができるために,近年研究が活発化している。

 また,金属の合金でも,負膨張材料の開発は行われている。もともと,「インバー」で知られる36%Fe-Ni合金は低熱膨張を特徴にしているが,これに近い組成の合金で負膨張になるものがいくつか発見された。しかし,今のところ高価な白金を使っていたり,低温域でしか負膨張になるものしかなく,実用化には至っていない。

供給・開発状況
2005/12/16

 負膨張材料としては,タングステン酸ジルコニウム(ZrW2O8)やシリコン酸化物(Li2O-Al2O3-nSiO2)といった複合酸化物が実用化している。

 一つは他の材料に混合して熱膨張をゼロにする使い方である。例えば,ガラス中に負膨張材料を混入させる結晶化ガラスが開発されている。ガラスの熱膨張を結晶の負の熱膨張で相殺する。液晶パネルやプラズマディスプレイパネル向けのガラスに採用されている。ガラス上にTFT(薄膜トランジスタ)を作る際に熱を加えることから,熱膨張に起因する不具合を減らすためである。

 また,負膨張の特性自体を使うものとして,光ファイバーで特定の波長を取り出す光フィルターの構成部品として使われている。光フィルターでは,回折格子(グレーティング)を作りこんでいるが,回折格子の間隔が温度によって広がってしまうことと,屈折率が温度変化することが問題になっている。このため,光ファイバーにタングステン酸ジルコニウムを混ぜて膨張率を調整した負膨張材料を張りつけて,こうした特性変化を抑えることにより,性能の安定化に貢献している。

理研・JST,組成を変えることで負膨張特性をコントロール

 理化学研究所と科学技術振興機構(JST)はこのほど,「逆ペロフスカイト」構造を持つマンガン窒化物Mn3XNを基本構造とする負膨張材料を開発した,と発表した。通常,Xが亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),銅(Cu)であるところ,Ge(ゲルマニウム)を加えることによって,磁気相転移現象を連続的にすることに成功したのである。

 ユニークなのは,Xの組成や比率を変えることによって,様々な線膨張係数(α)を持つ材料が得られたことである。最高でα-25μ/℃の材料も調整することができ,これまでで最高の線膨張率を持つ負膨張材料の開発に成功した。また,今後組成の調整を最適化していけば,他の材料へ複合化させることなく,単一物質としてゼロ膨張を実現できる可能性が出てきた。特に,工作機械の冶具などに使うことによって,高い加工精度を持たせることが可能になるのではないか,と見られている。

 

ニュース・関連リンク

理研・JST,単一物質で「ゼロ膨張」が可能な新負膨張材料を発見

(Tech-On!,2005年12月15日)