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用語解説

 Liイオンを電極に出し入れすることにより充放電を行うリチウムイオン2次電池に使われる電極材料のこと。正極材料の主流はLiCoO2(コバルト酸リチウム),負極材料にはカーボン(グラファイトなど)系が使われることが多い。電解質としては, LiClO4,LiPF6などのLiイオンを含んだ有機電解液が採用される。

 Liイオンが正極および負極材料の結晶中の原子の間に入ったり出たりすることにより,電気化学反応が起こる。充電時には正極の LiCoO2からLiイオンが引き抜かれて,負極に移動する。放電時には,負極からLiイオンが引き抜かれて電解質を通って正極に,それと共に電子が外部回路を通って正極に達することにより電池としての仕事をする。充放電反応は一般に次のように表される。

LiCoO2 + C6 ⇔ Li1-xCoO2 + LixC6

ここで,→が充電,←が放電である。

軽量,大容量であることから2次電池の本命に

 2次電池には他にNi-Cd電池やNi水素電池があるが,浅い充放電を繰り返すと容量が減少してしまうメモリ効果があることやNi-Cd電池については Cdが環境汚染物質であることから欧州で回収が義務付けられるなどの理由からLiイオン2次電池への置き換えが進んでいる。

 また,軽いLiを使っていることから軽量化が可能で,電池の起電力が3.6VとNi水素電池の3倍近いことから質量エネルギー密度が 150~200Wh/kgと大容量であるため,携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器をはじめとして,電気自動車やハイブリッド自動車向けの2次電池としても有望視されている。

安価・高性能・安全な新電極材を模索

 正極,負極材料共に,より安価で高性能であるとともに発火事故を起こさない新材料を開発,採用する機運が高まってきている。正極に使われる LiCoO2については,コバルト(Co)が高価な希少金属であることから,より安価なマンガン(Mn) を使ったLiMnO2や,ニッケル(Ni)を使ったLiNiO2を採用したLiイオン2次電池の開発が進んでいる。

 また,LiCoO2はその層状の結晶構造が安全面でも問題を抱えているという指摘がある。過充電などによって100数十℃以上に加熱されることによって結晶構造が壊れて酸素が発生して,有機系の電解液と反応して発火や発煙を起こすというのである。そこで新しい結晶構造を持つ電極材料の開発が活発化してきた。

 負極材料についても,これまで独壇場だったカーボン系の代わりに,合金系など高容量化を可能にする新素材を使う試みも出てきた。

供給・開発状況

2007/1/11

発火事故により安全性問題が浮上

 米Dell社は2006年8月,ソニー製リチウムイオン電池を搭載したノートパソコン向け電池パックを発火事故を理由として自主回収すると発表した。これを発端に,リチウムイオン2次電池の安全性問題が浮上した。

 ソニーは10月24日に記者会見を開き,事故の原因として,金属微粒子が電池セル内に混入して発熱・発火に至るメカニズムを明らかにした。それによると,シート状の電極,セパレータを加工する製造工程でセル内の特定部位にNi微粒子が混入,これが電解液に溶け出してセパレータを挟んだ負極側で固体化する。これにリチウムイオンが付着してリチウム金属が析出してセパレータを貫通し,正極と負極の間に短絡経路が形成され,短絡電流が流れて発熱・発火に至ったのではないか,とソニーは説明した。

 この説明に対して日経ものづくり誌は,電池の専門家への取材を通じて,正極材料であるLiCoO2(コバルト酸リチウム)の結晶構造に問題があるのではないか,という問題提起を行った(同誌2006年12月号pp.105-111)。

電極材料に構造的な問題?

 それによると,LiCoO2は層状をしており,充電時にLiイオンが抜け出す際に過充電や過熱があると,Liイオンが層の間から抜けすぎて結晶が崩壊する恐れがある。崩壊時に熱を発して,さらに周囲の結晶を崩壊させて連鎖的に崩壊と発熱が進む「熱暴走」をいう現象が起きたのではないかと推測している。この熱によって電解液が蒸発して引火性の高いガスに変化してこれに内部短絡によるスパークが併発して発火に至るとする。同誌は激しい高容量化競争や低コスト化競争の中で,「熱暴走」に対する設計の余裕度が少なくなっていたのではないかと見る。ソニーはこの点については明確な見解を出していないようだが,いずれにしてもリチウムイオン2次電池の電池の安全性を作りこむ上で電極材料の重要性が改めて浮き彫りになった。

 ソニー製電池問題が落ち着いてきたと思った矢先の2006年12月,今度は携帯電話機向けのLiイオン2次電池で不具合が発生した。三洋ジーエスソフトエナジー製のリチウムイオン2次電池を搭載した三菱電機製の携帯電話機を充電中または充電直後に異常発熱して,破裂する恐れがあるという事例である。原因としては,電極板を巻く製造工程で位置決めを行うガイドと負極板が接触して負極板の端部に変形が生じ,落下などの衝撃によってセパレータを傷つけ,充放電を繰り返すうちに負極板がセパレータを突き破って短絡する可能性があるとされている。

内部短絡を抑える新構造

 以上のように,内部短絡が事故の原因であることが明らかになったことを受けて,各社とも短絡を起こさないような製法や電極構造を模索し始めた。

 例えば松下電池工業は12月18日,絶縁性金属酸化物を利用した耐熱層「HRL(heat resistance layer)」を負極の極板表面に形成することにより,電池が内部短絡した際でも,わずかな発熱を起こすだけで短絡状態をなくすことができるリチウムイオン2次電池セルを開発,量産体制を確立したと発表した。

新正極材の採用で安全性と高容量化を両立へ

 安全面で問題の多い正極材であるLiCoO2に代えて,新素材を採用することによって,安全性と高容量化を実現しようとする試みも活発化している。

 例えば,東京工業大学の山田淳夫助教授のグループは,正極材料としてLiFePO4を検討している。Pを構成元素に含み,酸素原子が強く共有結合した安定な「オリビン型」という結晶構造を持つことから,温度上昇に伴う酸素の発生が抑えられ,安全性が高いという。ただし,体積エネルギー密度などの特性にまだ劣るために性能向上の試みが続けられている。

 また富士重工業は正極にV2O5系の新材料を使うことによって,安全性と高容量化を共に実現しようとしている。負極材のカーボンにあらかじめLiイオンをドープしておき,充電によって正極材のV2O5に移動させ高容量化を実現する。これにより質量エネルギー密度を200Wh/kgに向上でき,現在同社が開発中の電気自動車「R1e」に搭載している正極材にLiMnO2を使ったものの2倍となったという。またV2O5は結晶構造が堅牢で,300℃以上でも酸素が分離することはなく,安全だとする(詳細は,日経エレクトロニクス2007年1月 15日号pp.30-31)。

負極にも合金系新材料が登場


【図】負極材料を合金系にして容量を2割~4割高めた新型Liイオン電池の展示の様子。左が第1世代の円筒型セルを用いた電池パック。真ん中は第2世代。そして右が今回発表した新負極材料を使った第3世代である。 (クリックで拡大表示)

 さらに松下電池工業と松下電器産業は,負極材料にこれまでの炭素系(グラファイト)に代えて合金系材料をを用いることで電流容量を約20%~40%高めた Liイオン2次電池を試作したと発表,2007年1月8日から米ラスベガスで開催中の「2007International CES」で展示した(図)。合金の組成は明らかにしていないが,電極当たりの理論的な放電容量がグラファイトの数倍高い。ノートパソコン向けに数年後の実用化を目指すという。

 この新負極材料にも,同社が安全技術と位置づける耐熱層「HRL」技術を導入している。これにより,容量を高めると共に,安全性を確保しているとしている。

ニュース・関連リンク

富士重工のLiイオン電池 新型正極で高容量を実現

(日経エレクトロニクス2007年1月15日号,What's New)

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(産業イノベーション,2007年1月10日)

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(Tech-On!,2007年1月9日)

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(日経ものづくり2007年1月号)

「コストは?」「どこまで高容量になる?」---松下電池工業が安全性を高めたリチウムイオン2次電池に関して質問に回答

(Tech-On!,2006年12月19日)

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(Tech-On!,2006年12月18日)

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リチウムイオン2次電池発火事故

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「発火率は350万分の1」「これで終わりにしたい」---ソニーがリチウムイオン2次電池の自主交換プログラムの概要を説明

(Tech-On!,2006年10月24日)

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