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 国際規格(ISO12100-1,ISO14121,ISO/IEC Guide 51)においてリスクアセスメントは,「リスク分析とリスク評価の両方を含むすべてのプロセス」と定義されている。具体的には,(1)使用および予見可能な誤使用の明確化(2)危険源の同定(3)リスクの見積もり(4)リスクの評価---という四つの工程から成る。端的にいえば,機器の使用状況(予見可能な誤使用を含む)を明確にした上で,すべてのリスクを洗い出し,定量的な指標で評価するということだ。

 リスクアセスメントを行う上で必須となるのが,「安全」の定義である。ISO/IEC Guide 51(規格に安全面を導入するためのガイドライン)」によれば,安全とは「受け入れ不可能なリスク(危険な状況下で起こり得る傷害または健康障害の可能性と,その程度の組み合わせ)がないこと」をいう。つまり,安全を確保するには,たとえ故障やミスが起きても機械自体が止まるなど,使用者には重篤な危害が及ばないようにする必要がある。リスクアセスメントとは,これを工学的に立証する手法のこととも言い替えられる。

 リスクアセスメントと同時に実施されるものとして,リスク低減方策がある。リスク低減方策は,リスクアセスメントの結果,「許容できない」と判断されたリスクを「許容できる」レベルに下げる試みである。上記の国際安全規格では,この二つは明確に区別されている。だが,国内の「機械の包括的な安全基準に関する指針」(厚生労働省通達)では,リスク低減方策がリスクアセスメントの中に含まれており,これらをまとめて「リスクアセスメント」としているようだ。

 リスクアセスメントを実施した時点で「受け入れ不可能」なリスクが存在する場合,何らかの安全方策を採用し,リスクを低減してから再びリスクアセスメントを行う。このサイクルを「受け入れ不可能」なリスクがなくなるまで繰り返す。特に機械を海外に輸出する場合には,リスク低減方策を何度でも実施してリスクを許容可能なレベルまで下げなければならない。だが,「機械の包括的な安全基準に関する指針」によれば,国内ではリスク低減方策において「本質安全設計」「安全防護・追加の保護法策」を実施してもリスクを許容可能なレベルに低減できていない場合,それを「残留リスク」として情報作成・提示すれば安全方策を終えて構わないということになっている。これは,国際規格とは異なる考え方である。その背景には,日本の製造業に特有の事情がある。日本では,機械を使用するユーザーのレベルが高く,設備機械を“上手に”使いこなしてきた実績があるため,安全対策にこれまで以上のコストを掛けずに済むという考え方が業界全体にあるように思われる。ただし,今後は国内でも,安易に「(許容できない)残留リスクの情報を作成する」のではなく,国際安全規格に基づいたリスク低減方策を進めていく必要がある。

 機械設備の分野では一般に,既に設置されたものに新たな安全方策を追加するよりも,新規設計時に安全方策を盛り込む方が,効果的にリスクを低減できるといわれている。既存の設備には制約が多く,そもそもリスクを低減しにくい上,リスクを低減しようとすると使いにくくなったり,莫大なコストが掛かったりする。

 リスクアセスメントの「精度」だけを考えれば,企画や構想設計の段階ではなく,詳細な設計が決まってからの方がタイミングとしてはよいのかもしれない。だが,実際にはリスクアセスメントの後にリスク低減までしなければならないことを考えると,むしろ詳細な設計が決まっていないうちにリスクアセスメントを行っておいた方がいいことが分かる。詳細が固まった設計も同じで,そこからリスクを低減しようとしても壁にぶつかることが多い。開発リードタイム,コストなどあらゆる面から見てもリスクアセスメントのタイミングは早ければ早いほど良いのである。