シェアと知財の保有は無関係か

 まずは簡単に知財戦略のおさらいをしてみよう。知財戦略とは、知財によって企業競争力・事業競争力を高めるための戦略である。いくつかの比較的簡単なセオリーから構築されるものだ。特許とは、ある発明を独占し、他人の利用を排除できる権利(独占排他権)である。この点を念頭に置くと、競争力を高める手段としての特許は、売り上げ規模の増大やマーケットの開拓といった要素よりは、むしろシェアの確保維持につながることが知られている。

 技術開発投資をしても特許に投資しなければ模倣され、シェアは低下する。一方、カーナビの例に見るように、相当程度の特許投資をしたとしてもシェアが低下することもある。こうした過去の事例からは、「特許とマーケットシェアは、ある条件下で関係性を喪失する」という、今まで大前提としてきた事実が揺らぎ始めたことを示唆する。

 筆者がコーディネーターをしていた東京工業大学キャリアアップMOT 知財マネージメントコースの受講生グループが、市場でのシェアと知財の保有状況の因果関係を研究し、その成果を発表したことがある。この発表では、シャープの太陽光パネル事業を例にとって、そのシェアの移り変わりと保有特許件数を調査した(表1-2)。

【表1-2】シャープの太陽光パネル事業の歴史
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【表1-2】シャープの太陽光パネル事業の歴史
 このグループは、2010 年時点でのシェア1位(約7%)である中国企業の特許保有件数も調査し、中国国内外を含めて約10件保有していることを確認した。その結果は以下のようにまとめられる。

シャープ:日本国内外で特許5000件保有=シェア3%
中国企業:中国国内外で特許10件程度保有=シェア7%

 この情報から導かれる論理的な結論はただ1つ、「特許の保有件数とシェアは無関係である」「シャープが保有する5000件の特許はシェアの維持確保には役に立っていない」ということである。これは今まで常識とされてきた知財の効能、つまり「特許取得=シェア獲得」を完全に否定する事例である。