高性能なモノだけが求められるわけではない

 発売後最初の20年間はシャープの基本特許、準基本特許が生きている。このため、コンペティター(競合企業)は太陽光パネルを製造販売できない。しかし、1980年を超えた辺りから状況が変わり始める。シャープの基本特許、準基本特許が有効期間の20年を経過し、満了の時期を迎えるからである(図1-2のA 点)。もっともこれらの特許が満了しても、コンペティターは高性能の太陽光パネルを製造できない。シャープの改良特許が生きているからだ。

 しかし、1985年頃になると、さらに状況が変わり始める。1965年頃から出願されている改良特許さえも満了し、徐々に消滅し始めるからだ。コンペティターからすれば、改良特許の満了を待って、それら改良特許に関連した技術を使って太陽光パネルを製造できるようになる。基本特許と準基本特許だけではなく、改良特許まで使えるようになるため、満了した特許技術を使ってコンペティターが製造できる製品のスペック(技術的高度性)は、徐々に高まっていく。

 この傾向は、1986年、87年と、時間が経過するにつれて顕著になる。改良特許が、1つまた1つと満了して、自由に使える技術がどんどん増えていくからだ。そして、ある時、先行者にとって恐ろしい瞬間が訪れる。満了特許だけを使って製造できる製品のスペックが、世の中が要求するスペックに達してしまうのだ。この現象を「技術のコモディティ化」と呼ぶ(図1-2のB点)。

 図1-2では、コモディティ化が生じたB点で、満了特許だけを使って、世の中が要求するスペック「変換効率(太陽光を電気に変換する効率)= 15%」を上回る太陽光パネルを製造可能になると定義している。なぜこれが先行者にとって恐ろしい瞬間なのか。それは、特許で権利が守られていない技術だけで、市場が要求するスペックの製品が製造できてしまうからである。つまり、特許を持っていない者が、先行者の特許を気にせず市場参入できるようになったことを意味する。その結果、著しい数の企業が市場に参入し、先行者のシェアは劇的に低下する。

【技術のコモディティ化の公式】
(a) 満了した特許技術だけで製造できる製品スペック= (b) 市場の要求するスペック


─本連載の目次─
─第1回─「技術と知財で勝る日本が世界でなぜ勝てないのか」
─第2回─「太陽光パネルにおけるシャープのシェア低下などの具体例」
─第3回─「工業製品のコモディティ化は必須特許の出願余地で決まる」
─第4回─「知財戦略の策定は対象知財のステージ確認から」
─第5回(最終回)─「日本企業は特許以外の方法で市場支配に注力し始めた」