必須特許の状態をハッキリと意識する

 最初は知財ステージI(導入・成長期)。市場が求める技術スペックに製品技術が満たないため、技術開発および開発成果の知財化を狙って投資すべき時期である。この時期に出願された特許には、基本特許や、これに準じた準基本特許が含まれ、必須特許となり得る。必須特許を数多く取得することで、やがて訪れる成熟期に備えて市場の支配力を強めておく準備期間でもある。ベンチャー企業の技術の多くは、このステージにある。大企業の事業領域でこのステージにある技術は、少数派である。しかし、一部の医療機器やバイオ・創薬関係については、多くの技術がこの知財ステージにあると思われる。

 次は知財ステージII(成熟期)。市場が求める技術スペックに製品技術が近づき、既に相当数の特許が出願されてしまっているため、特許出願をしても必須特許を取得できる可能性が小さくなる。成長した市場の中で高いシェアを確保することで、導入・成長期の投資を回収すべき時期である。同時に、競合他社の参入によって競争が激しくなるから、導入・成長期で取得した必須特許で他社参入を阻止し、他社の特許侵害行為で奪われた利益を回復すべき時期である。

 この知財ステージでの必須特許には、売り上げ、シェア、利益の確保だけではなく、競合他社の参入を阻む役割があり、特許が事業に最も大きな影響を与える時期である。そして、この時期の事業を有利に進めるためにも、導入・成長期で必須特許を取得しておくことが重要になる。前述のデジタルカメラなど、日本の大企業発の技術で、比較的高いシェアを維持できている製品は、その多くがこの知財ステージにあると考えられる。

 最後は知財ステージIII(衰退期)。必須特許が有効期間の20年を経過して消滅し始め、特許による支配力が相対的に低下する時期である。必須特許のほとんどが消滅してしまうと技術のコモディティ化が起きる。製品に関連した目新しい技術は既に存在しない。このため、知財戦略の効能は限定的になるから、後述するとおり、機能性とは別の付加価値で事業競争力を高めることに注力すべきである。太陽光パネルなど、日本の大企業の技術であって、シェアの低下に苦しんでいる製品は、この知財ステージにあると考えられる。


─本連載の目次─
─第1回─「技術と知財で勝る日本が世界でなぜ勝てないのか」
─第2回─「太陽光パネルにおけるシャープのシェア低下などの具体例」
─第3回─「工業製品のコモディティ化は必須特許の出願余地で決まる」
─第4回─「知財戦略の策定は対象知財のステージ確認から」
─第5回(最終回)─「日本企業は特許以外の方法で市場支配に注力し始めた」