知財による市場支配が有効な状況へと引き戻す戦略

 知財ステージI(導入・成長期)では高機能化戦略を講じるが、その後、知財ステージII(成熟期)から知財ステージIII(衰退期)へと進むにつれて、別付加価値訴求戦略に転換する必要性が出てくる(「知財戦略の策定は対象知財のステージ確認から(第4回)」参照)。これが一般的な特許戦略の流れである。

 それでは、別付加価値訴求戦略が有効な状況から高機能化戦略が有効な状況に引き戻すことはできないのか。言い替えれば、知財ステージIII(衰退期)から知財ステージI(導入・成長期)へとさかのぼることはできないか。これができれば、コモディティ化した製品についても、技術開発して特許を量産する、技術力と知財力で勝負するという日本のお家芸で、競争力を回復できる。

 例えば、自動車の分野を考えてみよう。19世紀に考案された「ガソリンエンジンで走る四輪構造、ハンドルで方向を操作する」という自動車の基本的なコンセプトは、20世紀初頭では既にコモディティ化していたともいえる。その中で、トヨタ自動車やホンダが興り、数兆円企業に成長していった。その後、70年代に排ガス規制という新たな技術課題が浮上した。この際に、いち早く実用性のあるハイブリッド車に研究開発投資をし、必須特許を取得したトヨタ自動車やホンダが、ハイブリッド車で先行し、大きなシェアを占めた。

 トヨタ自動車やホンダのハイブリッド車開発の発想の原点には、排ガス規制の中、将来的には電気自動車に移行するという予測があったはずである。ガソリン車と電気自動車を複合(ハイブリッド)した形態は、やがて本格的に訪れるであろう電気自動車市場での優位性を確保するための橋渡しとして企画されたものと推測される。

そして、トヨタ自動車とホンダはハイブリッド車に対して研究開発投資と知財戦略を施行したから、ハイブリッド車で大きなシェアを得ることに成功した。ハイブリッド車において、両社はまさに技術力と知財力で再び勝負して、これに勝ったのである。

 この例は、基本構造においては技術のコモディティ化に直面し、知財ステージIII(衰退期)に位置していた自動車産業が、ハイブリッド車という分野限りにおいて、知財ステージI(導入・成長期)にさかのぼったと評価できる。そして、それは技術力と特許力によって市場支配可能な知財ステージである。

 だとすると、別付加価値訴求戦略の下で行われる研究開発や知財活動では、10年後、20年後に到来する社会を見据えて、どのような市場が生まれ、どのような技術が必要になり、どこまで先行して技術開発投資と知財化をするのか、という研究企画的な発想が重要になる。未来社会で必要とされる技術を特定できたときには、高機能化戦略に戻り、技術開発投資と知財戦略に注力するのが正しい。