前回、材料知識を学ぶ上での壁を下げるためのコツを紹介しました。今回はその続編です。
材料の種類を表す名称には、JIS規格で定められた「和名」と「JIS記号」があります。実務では、部品図における材質指示も材料の発注も、JIS記号で行います。一方、和名は実務では使いませんが、名称に製造工程を表していたり(「冷間圧延鋼板」など)、性質を意味したり(「高張力鋼」など)、用途を表したりしたものがあります。これらの情報は理解を深めるのに役立ちます。
しかし、用途を表したものには注意が必要です。例えば、「炭素工具鋼」や「高速度工具鋼」、「高炭素クロム軸受鋼」などは、具体的に工具用、軸受用といった用途が記されています。実は、この一部に実務とのズレがあるのです。
例えば、炭素工具鋼は、実際に工具に使われることはほとんどありません。工具に使用すると工作物との摩擦で高温になります。炭素鋼は高温になると一気に強さが低下するので、使いものにならないのです。では炭素工具鋼は使われていないかというと、そんなことはありません。この鋼は炭素量が多いため硬く、焼き入れにより耐摩耗性に優れます。従って、構造部品として広く使われています。経験を積むと、こうした和名の違和感はなくなりますが、初めて学ぶ際には注意することが必要です。和名の用途に引きずられることなく、その性質を活かして使うことが大切です。