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樹脂製ハンガーがポキン

 クアラルンプール市内でクルマを見て、直ちに気がついたことがある。それは、Proton車(三菱自動車の車両によく似ているので一目で分かった)が非常に多かったことだ。Proton社が高いシェアを占めてきたからである。私の乗ったタクシーも同社製だった。

 だが、タクシーに乗って不安を覚えたのは品質だ。ガラス窓を上げ下げする回転ハンドルが壊れて外れていたのだ。かなり走り込んだと思える車両だったので、そんなこともあるのかもしれないと、この時は無理に納得しようとした。ところが、ホテルから日本人がタクシーに乗ろうと身体を半分後部座席へ入れ、天井に付いているハンガーを握った時のことだ。樹脂製ハンガーがポキリと折れたのだ。ホテルのボーイがとっさに身体を支えたので事なきを得た。これらの不具合から、私はこの会社のシェアが低下していくのではないかと感じた。

 これに対し、Perodua社の小型車 (ダイハツ工業の「ミラ」に似ていた)は、比較的新しく、元気いっぱい走っているように感じられた。

 マレーシアの自動車部品メーカーを私は十数社訪問したが、当時はものづくりの基本である2S(整理、整頓)すら、まだまだの感があった。総じてオフィスはピカピカだが、生産現場は「うーむ…」と考え込んでしまうという感じだった。日本企業とは逆なのである。この一件からだけでも、マレーシアにおける重要部品の調達はハードルが高いということを納得できた。つまり、現場力が課題だったのだ。

 この後、さらに課題に遭遇した。クアラルンプール郊外には良く整備された工業団地があり、そこにある企業を訪問した時の出来事である。偶然にも、その企業は私がかつて開発した製品と同じ目的の製品の開発を計画していた。そこで、その企業の社長から開発リードタイムを聞かれた私は「4年間だ」と答えたところ、彼はとても驚いた。どうやら半年程度の答えを期待していたようだ。そして、私が4年間の必要性を力説したのだが、なかなか理解してもらえなかった。このやり取りから、私はこの自動車部品メーカーは「設計力」に課題を抱えていると感じた。

 改めて、「設計力」とは100%の品質を目指して「やりきる力」である。抜けのないように課題を出し切り、全ての課題に対して論理的、かつ定量的裏づけを明確にする。その上で、開発のステップを進めていくことが基本である。新製品の開発は特に課題が山積となるが、それでも妥協することなく心配点をつぶしていかなければならない。

 100%の品質の設計を追い求めるか、95%程度の品質で諦めるか──。この間には天と地ほどの差がある。もっと言えば、最後の1%を追求することがとても大変なのだ。私の経験から言わせてもらうと、この1%を解決するために、開発工数の50%を使うと言っても過言でない。この厳しいスタンスで取り組むからこそ、開発に4年を要するのだ。

 確かに、半年程度でも「似たようなもの」は設計できるかもしれない。だが、私に言わせれば、それは妥協の産物だ。とても、お客様に提供できる製品とは言えない。本物の「設計力」を持たないが故の発想だろう。こうした企業から重要部品を調達しようと考える自動車メーカーはないだろう。

 たとえ1個の不具合でも、お客様にとっては100%の不良である。設計力が低ければ、9合目で生産開始となり、結果として1個の不良を是とする取り組みを許容したことになる。自社が9合目で生産を開始してないか、一度振り返ることが大切だ。