アメリカンフットボールに端を発し、今や米国スポーツ界全体に波及している「脳震盪(脳しんとう)問題」。より衝撃を吸収するヘルメットなど用具の開発や、受傷からプレーへの復帰までの「プロトコル」と呼ばれる手順の策定など、様々な対策が取られつつあるなか、新たな診断方法が開発競争に発展する様相を呈している。

 これまで脳震盪の診断は、記憶の欠如などの問診やふらつきなどを基準として、医務室やロッカールームで行われてきた。そのため、早期の復帰を望む選手が過小報告をしたり、受傷が疑われた際にフィールドのサイドラインで診断することが難しく、客観的でスピーディかつポータブルな機器での診断法の開発が望まれていた。

NBAチームも導入

 この新たな診断方法で一歩先んじているのが、カリフォルニア州パロアルトに本拠を置く米SyncThinkの「EYE-SYNC」だ。同社はスタンフォード大学で視線追尾と脳震盪の関連を研究してきたジャム・ガハー博士が、2009年に設立した。2016年にEYE-SYNCの実用化に成功し、医療機器や食品を司る米国食品医薬品局(FDA)の認可を受け、市場に投入された。

SyncThinkが開発した「EYE-SYNC」。SyncThinkのWebページより
SyncThinkが開発した「EYE-SYNC」。SyncThinkのWebページより
(図:SyncThink)
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 EYE-SYNCは大きく、VR(仮想現実)ヘッドセットとタブレット端末で構成される。診断方法だが、受診者がヘッドセットを装着し、診断が開始されるとヘッドセットの画面に光の点が円を描くように動く様子が表示される。受診者は両目でこの点の動きを追うだけだ。

 ヘッドセットには視線追尾機能が搭載されていて、両目の動きや揺らぎを測定する。障害があれば、動きがぶれたりうまく追えなかったりし、タブレットのソフトがその程度を測定、スコアやチャートとして表示する。測定時間は60秒で済む。同社は2015年の臨床研究による40以上の医療報告で、脳震盪だけでなく、若年性認知症やADHD(注意欠如・多動症)、薬物使用など様々な障害が眼球運動に影響を与えるとしている。

 EYE-SYNCはこれまで、スタンフォード大学やノートルダム大学など12を超える有力大学に導入されてきた。さらに初のプロチームとしてプロバスケットボールNBAのゴールデンステート・ウォリアーズが今シーズンから導入している。ウォリアーズの場合、EYE-SYNCを脳震盪だけでなく、選手の疲労具合も測定できるとして、選手の体調管理にも活用しているという。