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小さいアイデアでもいいから、みんなが少しずつ現状を打破する

米倉 今の日本が良くないところは発想が内向きであることだと思います。シュムペーターは「イノベーションは新しい組み合わせである」と言っているわけですが、内向きからは新しい組み合わせは生まれません。

前野 そうですね。やはり外に見に行かないと。

米倉 ウェディングドレスのプロジェクトも、捨てられているドレスがあるということと、スラムで見たことが結び付かなければ生まれなかったと思います。だから、若者は海外に出てほしいですね。

 そして、若者に教える人たちが頑張らなければならない。今の学生は、グーグルをはじめとするネット検索というツールを持っています。だから、知識の量だけで考えたら、教壇に立つ僕たちよりもはるかにすごい。我々はネット検索で分からないことを教えなければならないし、そこで戦わなければいけません。学校の先生たちは忙しすぎるんですね。

 小学校の徒競走で順位を付けなくなったという話がありますよね。コトの真偽は分かりませんが、もし本当だとしたら、かけっこが速いということをバカにしていると思いませんか。かけっこに順位を付けないなら、算数だって理科だって国語だって社会だって、みんな100点ですよね。要するに、算数や理科、国語、社会ができることはすごいから評価をつけるけれど、スポーツや音楽はどうでもいいから全員同じ評価にするという発想じゃないですか。こういう発想は日本をすごくダメにすると思うんです。

前野 それは僕も同感です。

前野 隆司(まえの・たかし)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、 『無意識の整え方』(ワニブックス)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(日経BP社)など多数。(写真:加藤 康)
前野 隆司(まえの・たかし)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、 『無意識の整え方』(ワニブックス)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(日経BP社)など多数。(写真:加藤 康)

米倉 多様な人がいて、それぞれがプロの仕事を手がけている。芸術でもそば打ちでもプロの仕事は「やはりすごいね」と尊敬して、感謝する。そういう社会をつくらなければなりません。

 日本のように安全でいい国はない。街を歩いていても殺気を感じることはありませんし、夜中に女性が一人で歩ける国は日本しかないですよ。物価も安い。米国や欧州は物価が高いですし、お隣の韓国も日本より高いと感じることもある。僕の友人では年金生活者が増えてきましたが、そういう人からすれば「デフレで物価が安くなることの何が悪いんだ?」と。そう聞かれると「確かにそうだよな」と思う。

 安全で物価が安いのですから、本来は生活しやすい国であってもおかしくない。でも、厚生労働省の統計によれば、自殺率はワースト6位だそうです。これは、評価の尺度が少なく、選択肢がすごく少ない社会であることが原因ではないでしょうか。道から一度外れると、極めて戻りにくい。この状況は変えなければならないでしょう。

前野 小さいアイデアでもいいから、みんなが少しずつ現状を打破する。それを実践するために一生懸命に考えて一歩を踏み出すことが大切ですね。

米倉 多様性(ダイバーシティー)がイノベーションを生む。これはとても大切な要素です。米国にいたとき、障がい者と健常者を同じクラスで学ばせるメインストリーム教育の現場を見ました。やはり、「授業の進捗が遅れている」「学芸会がうまくいかない」など、異論を挟む親がいるんです。そのとき、担任の先生はこう言っていました。「確かに遅れています。でも、うちのクラスの子どもたちは学校中で1番優しい」と。

 日本でも、同じようなことがありました。私が審査員を手がけた高校生の作文コンテストで、上位入賞者を中国に連れていった。入賞した高校生10人の中に車いすの生徒が1人いたんです。主催者からは「現地で事故が起きたらどうするんだ」と懸念する声はありました。でも、「僕が責任を取る」と言って、連れていったんです。そのときに現地で何が起きたか。他の9人は自分たちで考えて、行く先々で車いすの仲間のために「洋式のトイレはあるか」「ルートに階段はないか」といったことを率先して確認してくれたんです。素晴らしかったですよ。

前野 泣けますね。

米倉 ええ。万里の長城を見学したとき、車いすの生徒は「迷惑をかけるから行くのをやめます」と言ったんです。そうしたら、「何を言っているんだ」と他の9人が協力して背負っていきました。

 本当に大切なのは、こういうことだと思うんです、単に偏差値が高いということではない。こういう優しさを持った人が偉くなるような時代が来ていますよ。多様性を備えた場や経験がイノベーションを生む。これは、これからの時代で最も重要な価値観だと思います。

(次回に続く)