慶應義塾大学大学院の前野隆司教授と東京大学i.school ディレクター横田幸信さんによる対談の第3回。「自分自身への期待値は低い」と悩む横田さん。「自信があってしかるべきで、自信がありそうに見えるのに、なぜか自信がない」という深層を前野教授が幸せの研究でひも解いていく。「イノベーションにつながるアイデアを誰でも生み出せる方法がないか」と問う前野教授に、横田さんは情熱と実践の重要性を説く。自動運転を例にした横田流の技術視点の新しいアイデア発想法とは。

情熱を持って1歩踏み出さないと結果はついてこない

前野 大学時代にTシャツビジネスを手掛けて、新しいアイデアを生み出して具現化することが「つらい」と気付いたと話していましたね*1。そのつらさを乗り越えるために大切なことはありますか。

*1 大学時代のTシャツビジネスについては「凄腕イノベーターを育んだ故郷・長崎と「中二病」」を参照

横田 一緒につくって前に進めようという熱や、ダイナミズムを醸成していくことが大事なのではないかと思うようになりました。

前野 情熱ですね。

横田 例えば、すごく優秀なコンサルタントやクリエーターが、ものすごくカッコいい商品のデザインを考えたとします。ひと目見た時点では「これは、すごい」と思う。でも、量産して売るという段階では「そのすごさが価値になっているかどうか」「その価値を多くの人に説明できるのか」という観点が必要です。

 それを考えると、アイデアを具現化する際には、実はデザイン性を抑えて商品のクオリティーを多少下げたとしても、前に進める情熱の方を優先した方がいい場合もありますよね。だから何かのプロジェクトを進めるときは、できる限り情熱がある人と一緒にやりたいと思っています。

前野 その情熱が具体性のある魅力的なアイデアにつながるんだね、きっと。

横田さん(右)と前野教授(写真:加藤 康)
横田さん(右)と前野教授(写真:加藤 康)
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横田 ええ。見通しが不確実のまま5年、10年と頑張らなければならないことを続けられるかどうかは、情熱に懸かっていますよね。

 プロジェクトを進める中で、新しいニーズの存在を見つけたときに「ホントかな」という気持ちはなくなりませんし、「そんなマーケットが本当に存在するのか」と考え出すと、正直分からなくなってしまいます。誰に相談しても解決しないので、独りで頑張り続けなければならない期間もある。自分が考えたアイデアがハズレかもしれないし、当たりかもしれない。恐らく、自分の全力を出した結果だと思うけど、本当のところは分からない。でも、そこで情熱を持って、次の1歩を踏み出さないと絶対に結果はついてこないわけです。

前野 その通りですね。

横田 ある化粧品メーカーの仕事をしたときに、自分で「いけるな」という感覚を持ったアイデアについて、複数の役員に「これはいい」と言ってもらったことがありました。

 でも、自分のことを最初から応援してくれて、最も身近だと思っていた役員からは「ちょっと違うんじゃないか」と言われた。その意見を聞いたとたんに自分の中の「いける」という感覚がグラグラし始めるんですよ。「自信とは、もろいものだな」と。結局、もう一度ゼロから考え直して、同じ方向性でさらにアイデアを進化させたのですが、そういうときに「情熱」が効いてくる。

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