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ああ、踏み込むんですね

 ロボット開発に限らず、製品開発ではスケッチを描く人と、量産デザインを手掛ける人が分かれてしまうと難しくなってしまうケースが多いんです。スケッチだけ描いて「後は設計でどうにかして」というアプローチだと、結局どうにもならずに当初のコンセプトから形が歪んでいってしまいます。

 根津さんが形を歪ませないことにこだわったのは、歪ませないために内部の機構まで考える、いわばプロの領域でデザインしているからです。製品設計のプロの領域にデザイナーが半歩入り込むと、もう設計者は後に引けません。さっきまでできないという空気だったのに、いつの間にか「もっといいアイデアがある」とポジティブな議論になるんです。そんな感じで、相手の領域に半歩踏み込むのがすごく上手なんですよね。

前野 ああ、踏み込むんですね。

 エンジニアたちがデザイナーを信じて頑張って内部にうまく配置したら、今のLOVOTになりました。相手の領域を侵犯しないジェントルな姿勢だけではやはり動かない部分があります。かと言って、一歩踏み込むとやり過ぎになってしまう。根津さんの「半歩」というところがすごく大事なポイントと思います。

前野 面白いですね。それは、あらゆる関係性と一緒ですね。上司と部下や、夫婦だって同じでしょう。踏み込まないでいると関係が冷え切ってしまうし、踏み込み過ぎるとあつれきを生んでしまう。やはり、ちょっとだけうまく入り込んで、ちょうどいいところで理解し合うのが大切です。エンジニアは「これではできません」と言いがちなところもあるので、半歩入ることでそれを言わせないようにする側面もありそうです。

 エンジニアが「できません」と言う理由は、責任感があるからです。自分が開発している製品を絶対にものにしたいから、できない可能性があることはなるべく排除しておきたい。その責任感で「できません」と言うだけなので、本当は挑戦してみたいわけです。失敗してもいいんだったら、チャレンジしたい。だから、半歩踏み込むとチャレンジャー魂に火がつく。

林 要(はやし かなめ)。GROOVE X 代表取締役。1973年愛知県出身。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了後、1998年にトヨタ自動車入社。同社初のスーパーカー「レクサスLFA」、トヨタF1開発などを担当。2011年に孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」の外部第一期生として参加後、2012年にソフトバンクに招聘され、人型ロボット「Pepper」の開発プロジェクトに携わる。2015年11月にGROOVE Xを設立。家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発で大きな注目を集めている。(写真:加藤 康)
林 要(はやし かなめ)。GROOVE X 代表取締役。1973年愛知県出身。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了後、1998年にトヨタ自動車入社。同社初のスーパーカー「レクサスLFA」、トヨタF1開発などを担当。2011年に孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」の外部第一期生として参加後、2012年にソフトバンクに招聘され、人型ロボット「Pepper」の開発プロジェクトに携わる。2015年11月にGROOVE Xを設立。家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発で大きな注目を集めている。(写真:加藤 康)

前野 いいですね! ポジティブな世界観で幸せです。逆に、「デザイナーにメカは分からないから」「エンジニアなのにデザインに合わせて設計できないなんて」と、ネガティブな関係になってしまうと不幸です。ポジティブに尊敬し合って互いに燃える。何だかカップルみたいだけれど、そうするといいものになる。それが幸せな開発の秘訣なんですね。

 そうだと思います。

前野 うちの学生がLOVOTを抱えたときに「ちょっと重いかな」と言っていたんですけど、そんなことないですか。

 ぎりぎりかなと思っています。ちょうど生後1カ月ぐらいの赤ちゃんと同じ重さなので。「ウィキペディア」を見たら、猫の体重の中央値が同じくらいでした。

前野 へぇ、猫の方が軽いような気がするけれど、LOVOTはぬいぐるみをイメージしてしまうから、持ち上げたときに「あれ?」と感じてしまうのかもしれないですね。

 恐らく、慣れはあると思います。マイクロプロセッサーの処理能力が進化し、内蔵するシステムなどをシンプルにできれば、いつかは軽くなるかもしれません。でも、子育て経験のある方に聞くと、ちょうどいい感じだそうです。「このぐらい重さがあるとリアリティーがある」と話す方もいます。

前野 確かに、子育て経験があると形状や重さにフィット感がありますね。デザイナーの根津さんは、それも狙ったんですか。

 僕から伝えたLOVOTが備える特徴は「移動できること」と「抱っこできること」の2つです。外形がダルマ型なのは、抱っこするときの手の掛かり方を考えているためです。

前野 僕は、頭の上についている「角(つの)」が気になるんですよ。エンジニアとしてのバックグラウンドがあると、どうしても角を「カメラ」として見てしまうんですけど、みなさんはどうなんでしょうね。

 女性に聞くと、びっくりするぐらい「気にならない」と言われます。僕も最初にデザインを見たときに「いいのかな、ここに付いていて」と思いましたが、周囲の女性に見せると「大丈夫」と言われるんです。

 でも、僕としては自分の違和感を正当化したいので、「もっとモフモフにするとか、違う形にしたらどう?」と聞いてみると、「いかにも、おじさんが考えそうな『これ、かわいいでしょう』という企画、本当にやめてください」と言い返される始末で…。

前野 男性が考える「かわいい」には勘違いが多いということですね。