
「版権フリー」って、どういうことですか?
前野 太刀川さんが創り出す強くて格好いいコンセプトは、僕からみるとやっぱり天才だから生まれるんだと思います。だって天才じゃないとそんなコンセプト、考えられないでしょう? 例えば「Mozilla」のやつとか。
太刀川 んー、そんなことないですよ。1つのコツは、当然過ぎて誰もやらないような、率直なコンセプトを見つける、ってことでしょうかね。
あ、Mozillaのやつっていうのは、2013年に、Webブラウザの「Firefox」を開発しているMozilla Japan(現・WebDINO Japan)のオフィス内にあるスペース「Mozilla Factory Space」をNOSIGNERが設計したんです。その際に、単なる空間設計ではなく、オフィスデザインとしては非常に珍しい版権フリー(オープンソース)を取り入れました。
前野 「版権フリー」って、どういうことですか?
太刀川 簡単に言えば、「図面を公開するので誰でも真似しちゃってくださいね」という考え方です。Firefoxはオープンソースですよね。僕らがオフィスの設計をするとき、「なぜ世界最大級のオープンソースコミュニティーであるにもかかわらず、オフィスをオープンソースにしないのか」と考えました。そこでオフィスを構成しているフロアや棚、照明、テーブルといったものの図面を全てオープンソースにして、誰でも自由に同じものを作れるように仕様をオープンにしたんです。
そうしたらシリコンバレーに仕様をコピーしたオフィスができたり、フランスの家具ブランドが図面を基に制作したテーブルやイスを売っていたり、山口情報芸術センター(YCAM)のワークショップルームでテーブルを使っていたりと、オフィスの仕様がオープンソースとして世界に広がっていきました。これは、単に「家具の図面を公開しましょう」という取り組みで何もテクノロジーはないわけですが、インテリアデザインとしてみると極めて珍しくて、極めてインパクトのあるオープンソースのインテリアの事例として注目されたんです。
前野 ちょっと待った(笑)。「オープンソースの会社だから、オフィスもオープンソースにしよう」っていうコンセプトを発想することは、強くてかっこよくて天才的だなって思うんだけど。
太刀川 それを思いつくプロセスがあるんです。
前野 それを聞きたいですね。
太刀川 まず、コンセプトは単純で、直接的な方がいいんですね。先程言った「率直さ」ですね。具体的には、20〜30文字で新しさと強度を説明できるアイデアを考えてみる。そうすると、回りくどい案は出せないんです。
例えば、「Mozillaはオープンソース」→「オープンソースだからDIY」→「DIYといえばホームセンター」→「ホームセンターには工具」→「工具といえばドリル」→「ドリルは螺旋」→「だから螺旋のオフィスにしました」と連想ゲームのように考えたことを話しても、説明を聞いている人はチンプンカンプンでしょう?
でも、「オープンソースな人が集まる会社を、オープンソースなオフィスにしましょう」というのは直接的じゃないですか。ここで大切なことは連想ゲームを長引かせないことなんです。僕はダイレクトにつなげられるかにすごくこだわりをもっています。それがないと理解のスピードが落ちてしまうからです。
前野 回りくどいのはよくないということですね。