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利点は今日からでも参加できるということ

矢野 一長一短があるんじゃないですかね。脳を計測したり、体温を測ったりといった、もっと詳しく生理的な現象を捉えるアプローチもあるでしょう。

 ただ、そうしたアプローチは現状、本人の負担が重くなってしまいます。加速度センサーを使う一番の利点は、すでに10億人以上が持っているスマホにアプリさえダウンロードすれば、今日からでも参加できるということです。

前野 センサーを取り付ける場所は選びますか。

矢野 体に付いていれば、どこでもいいんです。ポケットがない人は、ジョギングする人などが使う専用ホルダーのようなもので取り付けてもらえばいいので。

 大会ではない時期はセルフトレーニングの期間として、測るだけでなく、「その日のチャレンジ」というレシピを100個以上提供しています。朝に「今日はこれをやってみよう」というレシピを選ぶと、夕方になると「実行しましたか」とシステムから聞いてくるんですよ。

 そのレシピを選んで実行した日にハピネス度が上がっているかどうかは分かるので、その人に合っているもの、合ってないものが分かります。「ある人にはすごく良くても、合わない人もいるレシピ」もあれば、「平均的にそこそこの結果を出すレシピ」もありまして、全体としてもっとデータをどんどん集めながら見えるようにしていこうと考えています。

前野 多くの人が使えば使うほど、データがどんどん集まるんですね。そうすると、また何か分かりそうです。

前野 隆司(まえの・たかし)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、 『無意識の整え方』(ワニブックス)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(日経BP社)など多数。(写真:加藤 康)
前野 隆司(まえの・たかし)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、 『無意識の整え方』(ワニブックス)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(日経BP社)など多数。(写真:加藤 康)

矢野 ええ。いろいろとレコメンデーションもできるでしょうし。

前野 マーティン・セリグマンさん(ペンシルバニア大学教授)がよく話す「ミーニング(人生の意味や意義の自覚)」との相関関係のようなものは測れるのですか。

矢野 それは測れていません。私の基本的な理解では、ハッピーな状態は要するに「気分が晴れ晴れして、食欲もあって、よく眠れて、未来に希望を持っている」ということですよね。我々が測っているのは、その状態についてなので。

 逆に言うと、「気分が晴れ晴れしなくて、周りの人もどうせ助けてくれないだろうな」と感じ、何かおいしいものが出てきてもちっともおいしくないし、夜はちっとも眠れない状態はアンハッピーであることに間違いありません。これは時代や文化に全く関係ないのでユニバーサルだと思うんです。

 もちろん、どうすればハッピーになるかということは、文脈や状況、性格、文化、時代背景によって異なります。当然自ら意志を持って目的を決めたり、定めたりするということは、ハピネス度を高めるためにとても大事なことだとは思います。

前野 アンケート調査では幸せな状態とミーニングや利他性などには相関があるので、状態としてのハピネス度が計測できるのであれば、ミーニングなど他の要素も測れそうです。

矢野 ある種の平均値としては測れるかもしれませんね。ただ、相関は、あくまで平均値として関係があるかどうかを表しているので、個別に見ると逆の人もいるわけです。我々は、その個別の事象を大事にしようと思っています。もちろん、平均値も基本的なナレッジなので、その価値も見つけなければならないとは考えています。

 これまでセンサーにより計測結果と、様々なアンケート調査の相関関係を調べていますが、必ずしも計測結果が普遍的であると確信を持っているわけではありません。さらにデータを集めると、他のことが分かってくる可能性は当然あるので、乞うご期待というところです。

(次回に続く)