「成長」という言葉から目を背けてきたかのような日本のスポーツビジネス。ここにきて、大きな変化が起ころうとしている。政府が進める新しいスポーツ行政の姿が具体化し始め、従来の約3倍となる15兆円産業を目指した動きが本格化する。国内外の専門家がこれから10年のスポーツビジネスを展望したレポート『スポーツビジネスの未来 2018-2027』(日経BP社)を共同監修した、早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授と、スポーツジャーナリストの上野直彦氏は、「スポーツこそ、地方創生、教育、少子高齢化といった様々な日本の社会課題を解決するカギだ」と指摘する。

世界から注目集まる「ゴールデン・スポーツイヤーズ」

 21世紀に入り、スポーツビジネスが世界で成長を遂げる中で、日本では市場規模が横ばい、もしくは減少という傾向が続いた。だが、世界における成長の波に乗る大きなチャンスが訪れようとしている。2019年から2021年にかけて、世界的なメガスポーツイベントが3年連続で開催される「ゴールデン・スポーツイヤーズ」という千載一遇の機会を迎える。この機会は、これまでもなかったし、今後もそう簡単には生まれないだろう。

*本稿は、『スポーツビジネスの未来 2018-2027』の第1章の内容から抜粋した。グローバルの動向については前回の「2027年、スポーツビジネスはどこに向かうのか」を参照。
間野氏と上野氏が共同監修した「スポーツビジネスの未来 2018-2027」。国内外の専門家が、これから10年のスポーツビジネスの姿を予測した
間野氏と上野氏が共同監修した「スポーツビジネスの未来 2018-2027」。国内外の専門家が、これから10年のスポーツビジネスの姿を予測した

 2019年にはラグビーワールドカップ(W杯)、2020年には東京オリンピック・パラリンピック、2021年にはワールドマスターズゲームズ2021関西が日本を舞台に開催される。夏季オリンピック・パラリンピックは東京都ほか8道県で、ラグビーW杯は北海道から九州まで12都市で開催される。世界3大スポーツイベントとして挙げられる国際大会が来年から2年連続して日本にやってくるわけだ。さらに「する」スポーツの世界最高峰の祭典であるワールドマスターズゲームズは関西8府県での開催である。

 このようにメガスポーツイベントが連続して同一国で開催されるのはこれまで極めて稀だった。ここにきて、2023年のラグビーW杯と2024年のオリンピック・パラリンピックのフランス招致が決まっており、ゴールデン・スポーツイヤーズは今後、世界的な流れになるかもしれない。その先鞭をつけるのが日本だ。その成否への世界からの注目は大きい。

政府の取り組みが本格化

 スポーツビジネスに関する日本の政府や行政の動きも活発になっている。日本政府はゴールデン・スポーツイヤーズへの期待の表れとして、2015年10月にスポーツ庁を設置。同庁の鈴木大地長官が「我々の仕事は、スポーツで稼いでいいんだという空気を醸成すること。そのことを国が発信する」と語っているように、これまでの文部科学行政ではない新しいスポーツ行政を推進していく政府の姿勢が明確に示された。

 安倍内閣でも、2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016」で「官民プロジェクト10」のうちの1つとしてスポーツの成長産業化が具体的に明示された1)。KPI(重要業績指標)としては、2025年のスポーツ産業の市場規模を15兆2000億円と2015年の2.8倍に、2021年までに国民のスポーツ実施率を2015年の40.4%から65%に、それぞれ高めることを掲げた2)。スポーツ産業を成長産業とするために、「スタジアム・アリーナ改革(コストセンターからプロフィットセンターへ)」「スポーツコンテンツホルダーの経営力強化、新ビジネス創出の促進」「スポーツ分野の産業競争力強化」をスローガンにしている。

 さらに、2017年3月に開催された「未来投資会議」では、スタジアム・アリーナをスポーツ観戦だけではなく、市民スポーツ大会やコンサート、また物産展などが開催され多様な世代が集う地域の交流拠点として、2025年までに20カ所整備することを安倍総理が明言した。この方針は2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」にも引き継がれている7)

 政府や官庁が、ここまでスポーツの成長戦略について明確な提示を行なったのは初めてのことである。日本のスポーツビジネス産業のポテンシャルには大きな期待が集まっている。さらに重要なことは、「2020年以降」だろう。目がスポーツイベントの開催後を“祭のあと”にしないよう、中長期のビジョンとビジネスプランの下で様々な準備が今後進んでいくだろう。

 2020年以降にも、2023年には日本サッカー協会(JFA)がサッカーの国際サッカー連盟(FIFA)女子W杯またはFIFAフットサルW杯の招致を目指しているという話もある。このほかにも、2026年には愛知県および名古屋市がアジア競技大会を開催することが決まっており、さらに札幌市が2026年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致に動いている。同年または2030年に再び五輪の熱狂が日本にやってくることになれば、そこまでを想定した「スポーツ大国」へのプランニングを進める動きも出てくるだろう。