ITの活用で確立する「第3の観戦スタイル」

―― ITを活用することで、コンテンツホルダーであるリーグやチームがチケットの価格や流通を管理できるようになるという点がポイントですね。

葦原 その通りです。ここにきて、リーグやチームが公式にセカンダリーサイトを開設する動きが広がっていますが、これもIT化が進んだことによって可能になった取り組みです。

葦原 一正(あしはら・かずまさ)
葦原 一正(あしはら・かずまさ)
ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 常務理事・事務局長。1977年生まれ。早稲田大学院理工学研究科卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。2007年に「オリックス・バファローズ」、2012年には「横浜DeNAベイスターズ」に入社し、社長室長として、主に事業戦略立案、プロモーション関連などを担当。2015年にジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ入社。男子プロバスケットボール「B.LEAGUE」の立ち上げに参画(写真:加藤 康)

 観戦に行けなくなってしまったチケットは多くの場合、金券ショップやオークションサイト、チケット転売サイトの2次流通で転売されます。

 でも、2次流通に乗るチケットが増えると、公式価格よりも安価なチケットが出回ったり、逆に定価よりも高いチケットが横行したりするなど、コンテンツホルダー側が価格を管理できなくなってしまいます。本来獲得するはずだった収益を得られなくなることに加え、転売チケットを購入した人の顧客情報も得ることができません。

 これに対処することが、リーグやチームが自らセカンダリーの運営に乗り出す大きな理由の1つになっています。特にNBAでは、公式セカンダリーの導入が活発です。

 これには、もう1つの背景があります。チケット収入に占めるシーズンシートの割合が7割超と高いことです。シーズンシートの購入者は、すべての試合に行けるとは限りません。行けない試合のチケットを他の人に譲りやすい受け皿を用意することは、シーズンシート購入者のメリットになります。それによって、シーズンシート購入の継続率を高めやすくなる。その点に重きを置いているのです。

 公式セカンダリーがうまく機能すれば、リセールのチケットを実際に購入した人はもちろん、購入しようとした人、つまり興味を持った人の情報を知ることができます。これにも大きな意味があります。そこで得たデータを基にマーケティングを仕掛けていけば、ファン層の拡大にもつながりますから。ダイナミックプライシングや公式セカンダリーは、これからの10年で着実に導入が進み、どう使いこなすか、どのように顧客サービスや収益拡大につなげていくかが重要になっていくと思います。

―― 「観る」行為については、先ほどVRやARを用いた新しい観戦スタイルを挙げていました。具体的には、今後どのような変化が起こるのでしょうか。

葦原 「観る」については、これまで現地での観戦とテレビ中継の視聴が中心でした。ここにきて、スマホ向けの動画配信サービスが普及し、いつでもどこでも試合を観戦できるようになっています。この流れがさらに進むと、スポンサーの露出方法がITを活用したアクティベーションへと変っていき、オンラインによるグッズ販売も広がると思います。

 VRやARは、現地観戦と、テレビやスマホによる映像観戦とは異なるライブイベントの観戦を実現する可能性を秘めた技術です。VR向けのヘッドマウントディスプレー(HMD)で映し出される360度映像をうまく使いこなすことができれば、自宅にいながら、あたかも現地で観戦しているかのような雰囲気を味わえるでしょう。既に米国では、VRやARの技術を用いたスポーツ観戦を模索する動きが活発になっています。NBAは、2016年から毎週火曜日に行われる試合のVR映像の中継を始めました。この流れは、今後世界的に広がっていくと思います。

 ただ、現地での観戦体験には、AR/VRではなかなか味わえない雰囲気があります。「会場にいる周囲の人とコミュニケーションしながら盛り上がる」というライブイベントの本質ともいえそうな部分です。その意味では、パブリックビューイングが進化した先に「第3の観戦スタイル」としての大きなポテンシャルがあるのではないでしょうか。実際、音楽のコンサートや観劇では、チケットが入手困難なイベントを映画館などで生中継するライブビューイングが事業として成立しています。