大方の予想を覆し、サッカー日本代表の活躍で大いに湧いたW杯(2018FIFAワールドカップ)ロシア大会。深夜にテレビの前で日本代表に声援を送った読者も多いだろう。今回筆者は、元ジェフユナイテッド市原・千葉のチームドクターで、現いわきFCのチームドクター(齋田 良知先生=順天堂大)らに同行し、日本代表チームを追いかけて会場を回った。

 正直、これまでロシアという国に対して、緊張感というか、どことなく肩に力が入ってしまう印象を持っていた。これは筆者に限った話ではないだろう。しかし、ロシア滞在は予想に反して非常に快適で素晴らしいものだった。W杯のために実際に現地を訪問した人で、先入観を覆された人は多かったのではないだろうか。

ロシア滞在を快適にしてくれたIDカード「ファンID」の表面(写真:宮田誠)
ロシア滞在を快適にしてくれたIDカード「ファンID」の表面(写真:宮田誠)

鉄道、バスも無料で乗り放題

 ロシアでの快適な滞在をもたらしてくれたのが、今大会から採用された「ファンID」と呼ばれるIDカードだ。これが優れモノだった。ファンIDは、氏名、生年月日、パスポート番号、住所、電話番号、メールアドレスといった重要な個人情報を記録した、首から下げるタイプのパスポートサイズのIDカード。試合会場への入場には提示が義務づけられていた。

 通常、ロシアへの入国にはビザが必要で、入国日だけでなく出国日も申請する必要がある。しかし、ファンIDの取得によってビザの取得が免除されるだけでなく、試合観戦のためのロシア国内の鉄道、地下鉄、バスなどの利用が無料となった。しかも、レストランなどでも様々なサービスが受けることができた。

ファンIDの裏面(写真:宮田誠)
ファンIDの裏面(写真:宮田誠)

 スタジアムを訪れる観客の全てがIDで管理されているため、過激なサポーターの入場や犯罪の抑制になったことは間違いない。要は、今日の試合にどこの国からどんな人が来ているのかをすべて把握できているわけだ。

 前科のある犯罪者が試合会場に紛れ込んでいて、ファンIDのおかげで試合後に現地で逮捕された、という話まで聞いた。“常識”では信じがたいエピソードではあるが、誰しもがW杯の魅力には勝てない、といったところだろう。

 近距離無線通信を用いた自動認識技術(RFID)のチップを内蔵した公式チケットも、安全な大会運営に貢献していた。RFIDチップには、入場権やチケットのオリジナリティに関する情報が記録されている。これによってチケットの不正取引や転売防止に威力を発揮するほか、スタジアムに入場する際に非接触リーダーにチケットをタップするだけで良いため、QRコードやバーコードを利用したチケットよりスムーズにゲートを通過できる。

RFIDのチップを内蔵したチケット。入場権やチケットのオリジナリティに関する情報が記録されている。写真は日本代表対コロンビア代表の試合のチケット(写真:宮田誠)
RFIDのチップを内蔵したチケット。入場権やチケットのオリジナリティに関する情報が記録されている。写真は日本代表対コロンビア代表の試合のチケット(写真:宮田誠)

なんと、名物のアレが販売禁止

 もう1点、試合を開催する都市の取り組みでぜひお伝えしておきたいことがあった。ロシアを象徴するイメージの1つはウォッカである。屈強な男たちがウォッカをあおりながらサッカーを見て熱狂する(恐ろしい?)光景を目にできるかと思いきや、ほとんどお目にかかることはできなかった。

 今回のW杯期間中、スーパーマーケットなどの小売店では、なんとウォッカを含むアルコール度数の高いハードリカーの販売が停止されていたのだ。筆者が訪れたスーパーや酒屋のハードリカーのコーナーは、ビニールテープでぐるぐる巻きにされており、近寄ることすらできなかった。オリンピックよりも熱狂的なファンが集まるサッカーW杯を象徴する、“勇気”ある開催地の取り組みである。

スーパーマーケットで、ビニールテープでぐるぐる巻きにされていたハードリカーのコーナー。ロシア名物のウォッカは、口にすることができなかった(写真:齋田良知)
スーパーマーケットで、ビニールテープでぐるぐる巻きにされていたハードリカーのコーナー。ロシア名物のウォッカは、口にすることができなかった(写真:齋田良知)