リアル店舗を展開するリテール(小売店)業界にとって、拡大を続けるオンラインリテールは大きな脅威になっている。これは、スポーツ専門店も例外ではない。アパレルなど他の業態の小売店がスポーツ分野を強化し、競合関係が広がっているという現状もある。

 スポーツ専門店の強みをいかに打ち出していくか。「スーパースポーツゼビオ」を展開するゼビオは、大型店の特性を生かした体験型店舗の開発や、アスリート社員をはじめとする専門性の高い従業員による接客力の強化に取り組んでいる。これらの取り組みにデジタルツールを組み合わせることが、オンラインリテールへの大きな対抗軸になると見ているからだ。

 ゼビオグループが考える新しいスポーツビジネスの姿を、キーパーソンに聞く連載の第6回。今回は、ゼビオの加藤智治社長に、リアル店舗における改革の取り組み、専門性の高い従業員の育成などについて聞いた。
(聞き手は、高橋 史忠=日経BP総研 未来ラボ、
石井 宏司=スポーツマーケティングラボラトリー)

人口減少時代に、いかに客層を拡大するか

―― ゼビオグループはこれまで、主にM&A(企業の合併・買収)をしながら業容を拡大し、業績を伸ばしてきたと思います。リテール(小売店)の事業で、そのほかに力を入れてきたところはありますか。

加藤 私がゼビオの社長になって3年になりますが、まず経営管理をしっかりしていこうと取り組んできました。予算という目標があって、それに向けてどんな施策を打ちながら、どういう組織をつくっていくか。それぞれの組織がミッションを掲げ、進捗を管理しながら課題を解決していく。リテール事業のインフラの整理ですね。

加藤 智治(かとう・ともはる)
加藤 智治(かとう・ともはる)
ゼビオ 代表取締役社長。1974年生まれ。1999年東京大学大学院修了。ドイツ証券、マッキンゼー・アンド・カンパニー、フィールズ、ユニゾン・キャピタルを経て、2009年にあきんどスシロー専務取締役。2015年にゼビオ代表取締役社長に就任。学生時代には、アメリカンフットボールの大学オールジャパンに選出。社会人Xリーグのアサヒビール・シルバースターに9年間在籍。2000年のライスボールに出場し、アメリカンフットボールの日本一を経験。

 地味な取り組みですが、業績を改善していくためには極めて重要なベースになります。そのベースの上に差異化のためのブロックを積み重ねる。そのための取り組みを、「売り場・業態」と「組織・人材」の2軸で進めています。

 売り場・業態の軸では、例えば、店内に設けたコーナーの見直しです。スーパースポーツゼビオの店舗の床面積は平均で1000坪ありますが、それでも広さは限られています。縮小するコーナーを選び、空いたスペースに新しい商品やコンテンツを入れて売り場を革新していく。これを客層の拡大につなげていきたい。

 これから日本は人口が減っていきますし、一方で他の業界も含めてライバルは増えていくことになるでしょう。そうした環境下で客層を拡大することは、リテールビジネスの最大のテーマです。これは、スポーツリテールだけの話ではなく、家電量販店やドラッグストアなどの他の分野でも同じですよね。家電量販店は家電以外に、ドラッグストアは医薬品以外に、商品構成を広げながら客層を拡大しようとしています。

 客数の減少を客単価を上げることで補うという考え方もありますが、短期的には収益が改善しても、中長期的には顧客満足度が下がり、客数が落ちてしまう可能性がある。やはり、客数の増加は、その業態としての成長、あるいは世の中に受け入れられているということを示すバロメーターだと思います。

―― 売り場の革新の他に力を入れようとしている取り組みはありますか。

加藤 最近では、そこにデジタルの要素が入ってきています。EC(電子商取引)のプラットフォームとリアルがつながると、究極的には商品構成が無限に広がるわけです。それを実現することは差異化につながります。ただ、商品構成が無限に広がっても、デリバリーに時間がかかってしまうと、お客様は満足しません。オムニチャネルで商品を探せて、購入したら翌日届くような仕組みも必要になってくるでしょう。

 店舗内での顧客サービスにデジタルを取り入れる方向性もあります。例えば、お客様の足形を計測して足に合ったシューズを提案するサービスを考えると、今は計測も含めて、ほぼ人手を介したアナログによる取り組みです。これをデジタル化できないか。そういう発想も出てくると思います。ゴルフであれば、スイングを計測して、そのスイングを類型化し、それぞれのタイプに合ったクラブを選べるようにする、あるいは、カスタムで発注できるような仕組みが考えられます。

 これまでアナログでやってきたノウハウを可視化してデジタルに置き換えていく。それによって、ある程度のスキルと知識があれば、多くの人が高度なサービスを提供できるようになります。単にモノを売るだけではなく、デジタルとアナログのハイブリッドによるサービスという軸を加えていくことになるでしょう。

 当初は「売り場改革」と言っていましたが、これ自体は2次元の平面上での取り組みです。そこに商品構成やEC、サービスという軸を加えて、3次元、4次元でスーパースポーツゼビオをバージョンアップして、客層を広げていきたいと考えています。

―― 組織・人材の軸では、どのような取り組みを手掛けていますか。

加藤 お客様に直接的に価値を提供しているのは、経営陣や本部にいる人間ではなく、店舗の最前線でお客様に向き合っている従業員です。ゼビオでは「スポーツナビゲーター」と呼んでいます。彼ら、彼女たちがいかに高いモチベーションで、高いスキルでお客様と向き合うか。そのタッチポイントを強化する取り組みは大切です。

 ゼビオには約7000人の従業員がいますが、大型スポーツ専門店としては、「セルフで商品を選んで買ってください」ではなく、きちんと迎え入れたり、接客したりするところにさまざまな仕掛けや仕組みを入れていきたい。

 SPA(製造小売業)のように、すべてがPB(プライベートブランド)にはなりませんから、他の店でも買える商品と、独自の商品が混在しています。最終的には、ヒトで差異化していかなければなりません。特にスポーツ用品は、単に嗜好性で選ぶだけではなく、「自分のパフォーマンスを高めるために何が必要か」という、より合理的な判断で選ばれます。だから、接客には専門性が必要なはずなんですよね。