民間企業や地方公共団体などは、常時雇用している労働者数のうち一定割合以上の障害者を雇用することが義務付けられており、この割合のことを法定雇用率と呼ぶ。例えば50人以上の労働者を抱える民間企業の場合、2%以上の障害者を雇用する必要がある(2016年現在)。
「企業が障害を持つ方を採用する際に悩むことの1つは、どういった仕事をお願いすべきなのかということ。この悩みについて考えてみると、競技中心の雇用契約を結ぶと特別な仕事を用意しなくとも企業の広報やCSR(企業の社会的責任)的な活動につながりますし、さらに法定雇用率を確保しやすくなるんです」(高原氏)
障害者アスリートの採用は、広告塔としての役割と法定雇用率の確保という、一挙両得ともいえるメリットを企業にもたらすというわけだ。もう1つ注目すべきは、障害者アスリートが組織の一員になるということは、健常者と障害者の距離が近くなるということだ。そうした環境が企業の中で通常のものになっていけば、今後さらに推進されていくであろう「ダイバーシティー経営*1」にも一役買っていくことになるだろう。
セカンドキャリアも見据えた支援を
しかし、いつかアスリートは現役を退く。そうなるとメディアからの注目度は下がるため、宣伝効果というメリットは見込めなくなってしまうだろう。そうしたとき、企業側はアスリートのどう処遇するのだろうか。この疑問に対して高原氏は次のように答えた。
「アスリートを紹介する際、企業側には、必ずセカンドキャリアのことも考えていただくようにお願いしています。具体的には、次の3つの選択肢を用意してもらうようにしているんです。第1に、競技生活が終わったら通常の社員として雇用を継続し、業務に集中してもらうというもの。第2に、社員として雇用したまま、指導者として後進の育成や競技の普及活動に取り組んでもらうというもの。最後は、選手時代の経験を生かして、社員として講演活動やイベント参加を行うというもの。これまでの経験上、第2、第3の2つを選ぶ企業が多い傾向にあります。それは、選手時代と同様のCSR的な役割を期待しているからでしょう」
もちろん法定雇用率を確保し続けたいという企業の思惑も関係しているが、障害者アスリートはセカンドキャリアでも企業にメリットを与えられるということだ。そのため、これまでエランシアが支援してきたアスリートの中で、引退後に解雇された例はないという。
2020年へ向けて、障害者アスリートを取り巻く雇用環境は少しずつ整い始めている。ただし、この流れが2020年以降も続くとは限らない。後編では、現在の盛り上がりを一過性のブームで終わらせないためにエランシアが取り組むプロジェクトについて紹介していく。
(後編に続く)