時代を反映したストーリー

 このBONLABウォーキングステッキは、コピー機などオフィス機器の修理、メンテナンスを主業務とする平成電子が製造・販売している。廣田氏は同社からの依頼を受けて、デザインのみならず、ブランディング、販促・販売にも携わるようになった。しかし、なぜオフィス機器修理の企業がステッキの製造販売を始めたのだろうか。

シェル構造だとグリップの接地が2点になり、安定して置くことができるという。(写真提供:BONLAB)
シェル構造だとグリップの接地が2点になり、安定して置くことができるという。(写真提供:BONLAB)

 それは、社長(当時、現在は会長)が病気をした際に、ステッキを使うことを嫌がったばかりに転倒し、回復が思いのほか長引いてしまったという経験をしたからだという。その後、社員が集まって相談し、誰もが嫌がらずに使えるステッキの開発を始めたのだった。

 「これがとても時代を表したストーリーだなと共感したんです。まったく違う業界への転身で大変な世界へ入っていくことになる。最後まで伴走者としてサポートしていこう、そう思って、営業的なことも含めて一切合切お手伝いするようになりました」(廣田氏)

 ここで言う「時代」とは、次の2点で表すことができる。

 ひとつは経済価値を最大化する、これまでの制度や仕組みが限界に来ているということ。経済成長だけを指標にした組織もまた然り。従来の価値観だけでは事業が成り立たない。「豊かさ」が多様化してきたため、企業もさまざまな価値を生み出す必要が出てきており、ビジネスも多様化していかなければならない時代になったということだ。

 もう1点が、ビジネス全体をデザインしなければならない時代になったということ。廣田氏は「東京都ビジネスデザインアワード」の審査委員長を務めており、さまざまな企業のコンサルティングも手がける中で、モノづくりのもっと上流の経営の部分もデザインする必要を感じるようになったという。経産省や内閣府が「デザイン経営」「国の未来のデザイン」という提唱をするようになったのもその流れといえるかもしれない。

 「BONLABウォーキングステッキは、まさに、企業が新しい価値を生み出すために、市場を作り出すことも含めて、新しい事業に取り組んだ格好の事例といえるでしょう。ただモノを作って売るだけでなく、作り売ることで自分たちも変わる、社会も変えていくというメッセージも伝えていく必要があります」(廣田氏)