東京パラリンピックの開催を契機に社会の変革を目指す「超福祉展(正式名称:2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展)」(2018年11月7日(水)~13日(火)渋谷ヒカリエ他)が、今年も渋谷の街にやってくる。「カッコイイ」「カワイイ」「ヤバイ」をキーワードに、優れたプロダクトやデザインの力で、障害者や高齢者などマイノリティーとマジョリティーとの間にある“意識のバリア”を乗り越え、福祉のあり方を変えようとする取り組みだ。

 超福祉展に登場する技術、製品、ソリューションは、従来の福祉の枠にとどまらず、モノづくりの未来、これからの社会のあり方を考える多くの示唆にあふれている。優れた展示が揃うが、とりわけユニークなアイテム、ソリューションをピックアップし、紹介する。第2回は、オープンイノベーションのお手本のようなプロセスで生まれたオカムラの「Weltz-Self」である。

Weltz-Self
Weltz-Self
(写真提供:オカムラ)
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「椅子」にこだわった「車椅子」的なるもの

高橋卓也氏
高橋卓也氏
(オカムラ マーケティング部 オフィス製品部 企画担当)

 Weltz-Self(ウェルツ セルフ)は、車椅子のようにも見えるが車椅子ではない。あくまでもオフィスチェアである。ある研究会で車椅子ユーザーに「オカムラの椅子は座り心地はいいけど、障害者には使えないからな」と言われたことをきっかけに、オフィスでも障害者が使える椅子の開発を始めた。

 「障害者や、体に不自由のある高齢者でも、オフィスで自由に働けるような椅子を作るにはどうしたらいいのだろうか、というのが発想の起点でした。車椅子は屋外利用が基本で、椅子というよりも『乗り物』に近い。こちらはオフィス利用限定という、車椅子に近いが、『椅子』であるという発想からアプローチしていきました」

 そう話すのは、Weltz-Selfのプロデューサーを務めたオカムラの高橋卓也氏だ。冒頭の車椅子ユーザーというのが、実は佐賀大学で福祉健康科学を研究する松尾清美准教授だった。そこから佐賀大学との共同研究が始まった。後に佐賀大学の紹介で、神奈川県総合リハビリテーションセンター、日進医療機器が開発チームに加わった。

車輪は座面の真下、身体軸の真下に来るよう付けられた。車らしさを抑えるために覆いをつけてスポークを見えないようにしている。補助輪は、キャスターと同じようにスイングする機構。横移動のためにオムニホイールも検討したが、ここまで旋回性能があれば十分と判断したという。(写真提供:オカムラ)
車輪は座面の真下、身体軸の真下に来るよう付けられた。車らしさを抑えるために覆いをつけてスポークを見えないようにしている。補助輪は、キャスターと同じようにスイングする機構。横移動のためにオムニホイールも検討したが、ここまで旋回性能があれば十分と判断したという。(写真提供:オカムラ)
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 Weltz-Selfの特徴は、その高いデザイン性、優れた旋回性能にある。「デザインでは、見た目がオフィスの中にあるものだというアイデンティティにこだわりました。車椅子がある!、ではなくて、あくまでも一緒の椅子で仕事をしているという感覚です。そのため、『軽さ』にこだわりました」と高橋氏。スポークを出さない車輪。座面が浮いて見える形状、有機的で優しい曲線。「オフィスにあっても違和感のないものにしたかった」(高橋氏)。

 また、旋回性能を最大限に高めるために、車輪は体の真下に配置した。一般的な車椅子は車軸が身体軸よりも後方にあるため、旋回半径が大きくならざるを得ない。しかし、Weltz-Selfなら旋回半径が非常に小さく、軽快に動くことができるという。後方の車輪は旋回を補助するだけでなく、後方への転倒防止機能も持つ。

 デザインも旋回性能も、「車椅子」ではなく「椅子」を出発点としているが故に実現できた。もともとは、車椅子ユーザーが、オフィスでの利用の際に乗り換えて使うことをイメージしていたが、健常者が打ち合わせなどの際に机とホワイトボードを行き来するのに使ったり、運動能力が低下して立ち上がるのが大変な高齢者が、オフィスでのちょっとした移動に使ったりするようになったという。

「オフィスチェアというアイデンティティがあったからこそ、車椅子ユーザー以外の方にも受け入れられたのだと思います。病院や工場など、思わぬところから問い合わせがあり、こちらも驚いています」(高橋氏)