オープンイノベーションの見本
とはいえ、開発は決して簡単なものではなかった。そもそも外部事業者との提携もそれほど実績がなかった。また、オフィス家具のメーカーが「車椅子的なるもの」を作ることに社内で反発もあった。2012年から開発を続けてきたが毎年、開発会議で『本当にやる意味はあるのか』と議題に取り上げられたという。
それでもやり続け、成功した理由を、高橋氏は「外につながったこと」「思いがあったこと」と分析している。

「内部でなかなか賛同が得られなかったので、ある程度開発が進んだら参考展示に出したり、施設で試用してもらってフィードバックをもらったりしたんです。そういう外部の声をもらって、我々自身がニーズがあることを確信できたし、社内を説得することにもつながりました。また、私自身、当事者のみなさんと深く関わることで、Weltz-Selfの開発に情が沸いてきた。だからやめるにやめられない、やめたいとは思わなくなった。もしこれが普通の開発だったら、担当者が変わったときに終わってしまっていたでしょう」(高橋氏)
外部との共創、情という共感。まさにオープンイノベーションのお手本ともいうべき体制がここにある。施設では足の弱ったおばあさんに使ってもらい、どれくらいまで旋回性能や走行能力を上げればストレスなく使えるのか、じっくり研究したこともあったという。
「もちろんオカムラはメーカーですから、内部で自分たちだけでじっくり作ろうという風土がないわけではありません。しかし、新しいことを始めるために、内部だけでは限界があることにも気づき始めていた時でした。電動駆動が付いた『Weltz-EV』では、モーターなどの駆動部で、社内の近接領域の事業部と連携して内製化することも求められましたが、利便性や価格も考慮して外部の汎用製品を使っています」(高橋氏)
Weltz-EVは、Weltz-Selfのコンセプトをさらに推し進めて、使える障害者の幅を広げることを目指している。こちらもあくまでも車椅子ではなく、オフィスチェアである。
「ぜひ座って、その座り心地を試してほしいです。Weltz-Selfはあくまでもオフィスチェアであって、車椅子ではありませんから、車椅子と思って座ると、もしかすると物足りなさを感じるかもしれません。しかし、逆にオフィスチェアだけどこんな機能があるんだと思ってもらえば、異なった使い方のイメージが生まれると思います」(高橋氏)