内部構造の工夫で飛びやすさを追求

 最近のゴルフボールは、内部が複数の部材で構成された、2ピース、3ピースなどの多層構造が主流となっています(図1)。単一の部材で成形する1ピースは練習用です。多層構造は図1のように、中心部からコア、ケース、カバーなどから成り、層ごとに材質を変えることで質量配分を調整できます。それによって慣性モーメントを小さくしたり大きくしたりすることができ、飛翔中のボールのスピン回転数、スピン持続時間や飛距離などを調節できるわけです。

図1 ゴルフボールの内部構造
図1●ゴルフボールの内部構造
コアとケースが分かれることにより、ボールの特性を調整できる。4ピースのインナーコアの十字型形状は、ミズノの「クロスコア」と呼ばれるもの。(ミズノの図を基に日経テクノロジーオンラインが作成)
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 ゴルフでは慣性モーメントという言葉がよく使われますが、運動力学において、物体の回転運動における回転のしにくさの程度を示す物理量です。お相撲さんで例えると、小錦のような大きな力士が鉄棒で大車輪をしようとすると、回り出すのにそれは大きな力が必要ですが、一旦速度がついて回り出したら止めるのにも大きな力が必要となります。これは慣性モーメントが大きいということです。逆に舞の海のような小柄な力士は、押しに弱く回り出しも早いけれども、すぐ止められます。もし、身長と体重の同じ力士が2人いたとしたら、体形によって質量配分が異なる分、慣性モーメントは変わります(お腹が太いのか、頭が大きいのか、どこにお肉がついているかが重要です)。

* ゴルフボールの規定で決まっている質量と直径を用いて1ピースボールの慣性モーメントを求めると、83.72g・cm2となります(密度が一定である球体の慣性モーメントは2/5×質量×半径2)。

 ゴルフボールのメーカー、ミズノの研究開発部の研究員の方に、「多層構造の目的は慣性モーメントを変えることですか、それによる変動幅はどのくらいですか?」と伺ってみました。そのお答えは、以下の通りです。

 「ゴルフボールのメーカーは、確かに慣性モーメントの値をアピールポイントとしてうたっており、他社ではミッドの外側の層に比重の大きいタングステン・パウダーなどを用いて慣性モーメントを増やすなど、さまざまな工夫があるようです。ただ、慣性モーメントは大事な性能の一つですが、ミズノが多層構造にしている最大の理由は、打撃速度が大きくても小さくてもそれなりの反発、スピン特性を実現するためです。ルールで規定されているボールの直径と質量の範囲内では、慣性モーメントの値をそれほど大きく変えることはできず、ミズノのボールでも構造が異なっても慣性モーメントは80~83g・cm2と、約3g・cm2程度の範囲でしか変わりません。それでも、慣性モーメントが大きければ、それだけ飛び出し後の回転数が減ることは間違いありません」。

 昔は糸巻きボールがプロには圧倒的に使われていたそうです。その理由は慣性モーメントが小さく、スピンが多くかかるからでした。しかし現在は、糸巻きボールは姿を消しています。慣性モーメントが大きい方が、飛び出し時のバックスピンやサイドスピンの量を抑え、飛距離や直進性をアップさせる効果を期待できるからです。

 ただ、プレーヤーの力量やプレースタイルが変われば、どのようなボールが最適かは変わります。誰にとっても良く飛ぶ“神ボール”が存在するわけではありません。基本的にボールの値段はスペックで決まるようですが、各人に合った最適なスペックのボールを見つけることが、上達へのポイントの1つであると思います。